テンプルトン・グローバル・
マクロ・ESG指数(更新版)

国別ESGスコアの変化について6ヵ国のケーススタディをご紹介します。

2018年2月に、テンプルトン・グローバル・マクロ・ グループ(TGM) は、「グローバルマクロ投資における環境・社会・ガバナンス要因についての考察」と題し、グローバル・マクロ・シフト第9号(GMS9)を発行しました。同号では、TGMのマクロ経済調査プロセスにおける環境、社会、ガバナンス(ESG)要因の評価方法や調査結果から定量的スコアの算定に至るまでのプロセスについて説明し、TGMが独自に開発したESGスコアリング・システムであるテンプルトン・グローバル・マクロ・ESG指数(TGM-ESGI)をご紹介しました。今後、定期的にこのESGスコアを更新し、その状況およびスコアを公表していく予定です。初回となる本稿においては、TGMのESGに関する哲学とスコア化のプロセスの概要と、56ヵ国の最新のTGM-ESGIスコアを掲載しています。また、スコアの改善が見込まれる3ヵ国とスコアの悪化が見込まれる3ヵ国について、ケーススタディの概要も掲載しています。

TGMのESGに関する哲学と調査プロセス

個別のスコアについてお伝えする前に、TGMのESG分析プロセスについての考え方についてご説明します。この考え方は、ソブリン債投資におけるESG要因の最適な活用方法についての考え方を反映しています。

  1. ESG分析は、従来の経済分析や現地調査などの調査活動に十分に取り込むことによって最も効果を発揮すると考えます。経済成長やインフレといったESG以外の経済に関する調査は、各国の核となるマクロ経済見通しに影響を及ぼす一方、それらの分析を通じて、ESG要因が明らかになってくると考えます。
  2. TGMでは、ESGスコアの今後の変化に着目しています。各国の所得水準と強い相関がある現状のESGスコアよりも、将来に向けてのESGスコアの傾向や変化の方が、今後の運用パフォーマンスや最も有効な資産配分を決定するために、真に重要な評価基準となるとTGMは考えています。
  3. ESG分析は、各国のリスクと投資機会を把握する際に、重要な役割を果たします。TGMは、ESGスコアの改善・悪化の大きな変化を表している「テール(改善幅・悪化幅が非常に大きな国)」に最も着目しています。
  4. ESG分析による効果を得るためには、投資家は十分に長期的な時間軸で投資を行う必要があります。ESG要因は、各国のファンダメンタルズの指針となりますが、短期的には循環的、一時的な要因に左右される場合があります。従って、見通しについて確信とその見通しが実現するまで辛抱強く待つことが、ESG投資において成功するために必要であると考えます。
  5. 各国の長期的な経済ファンダメンタルズを重視した姿勢を持つことで、TGMは最良の経済政策の立案と実施を常に考えている各国当局者と効果的な対話をもつことが可能となります。このような対話は、お客様に運用サービスをご提供するTGMのみならず、民間の市場参加者の見方に興味を持つ政府当局者双方にとって重要です。

TGM-ESGI:ESGの分析手法とESGスコア

TGM-ESGIは、マクロ経済に重要であると考える13のサブカテゴリー(GMS9、ページ4ご参照)から構成されており、0~1001の間でスコア化されます。リサーチ・チームは、様々なグローバルな指標に基づいて作成された基準に、リサーチ・チームの見解を加味し、現状のスコアを付与します。次に、アナリストが中期的にESGの状況がどのように変化するかを予想し、予想スコアを付与します。最終的には、ガバナンス40%、社会40%、環境20%のウエイトで加重平均し、総合ESGスコアを算出します。なお、環境要因のウエイトが低い理由は、他の要因に比べて環境要因は、マクロ経済に影響を与えるまでに非常に長期間を要する、という考え方に基づいています。TGMが着目する将来に亘ってのスコアの変化は、単純に予想スコアから現状スコアを引いて算出しています。

2019年2月現在のESGスコアは図1と図2の通りです。分析の対象国は前回の44ヵ国から56ヵ国に拡大しました。

国別ESGスコア(TGM-ESGI)

図1:TGM-ESGIスコア:現状
2019年2月現在

図2:TGM-ESGIスコア:予想-現状
2019年2月現在

出所:ブルームバーグ、中央銀行の情報・データを基にFranklin Templeton Capital Market Insights Groupが算出 注釈 1.スコアの範囲を、初回のレポートで記載した0~10から、0~100に拡大しました。

ケーススタディ

前述の通り、TGMは、ESGスコアの改善・悪化の大きな変化を表している「テール(改善幅・悪化幅が非常に大きな国)」に最も着目しています。ESGスコアの改善が予想される3ヵ国と悪化が予想される3ヵ国の6ヵ国について、以下にご説明いたします。

ESGスコアの改善が予想される3ヵ国

インドネシア

  • ジョコ・ウィドド大統領は、国民からの改革路線への支持や、対立候補である上流階級で国家主義的な発言を行うプラボウォ・スビアント氏への反発から、4月の大統領選挙で再選する勢いをみせています。
  • 選挙後、インフラの充実、ビジネス面の規制緩和、汚職問題への対応など、ウィドド大統領の改革はさらに進むとみています。また、貧困と格差問題への対応を重視した政策も期待されます。
  • 同政権は、堅実な財政政策と一貫した金融政策を重視しており、経済政策運営は、より正統的なものとなっています。また、政府内の官僚の数は増加し、その質も高まっています。
  • 一方で、イスラム原理主義グループの台頭と政治への影響力の拡大により、社会的結束が弱まることが予想されます。

図3:インドネシア:現状と予想(TGM-ESGI)
2019年2月現在

現状 予想 出所:TGM-ESGI. 中期予想は向こう3年間の予想を意味します。

ブラジル

  • ブラジルでは、昨年10月に実施された総選挙結果が、新しい国の方向性を示唆しており、ルラ前大統領および労働者党(PT)政権下の構造的な腐敗政治に対する断固とした決別の意思がみられます。洗車作戦として知られる汚職捜査や汚職を断ち切ろうとする国民の熱意が、司法による汚職撲滅運動を支えています。
  • 新政権は有能な経済チームを結成し、特に社会保障改革といったブラジルが直面する根本的な問題の解決に取り組んでいます。
  • 国営企業の民営化の推進や貿易障壁の削減と相俟って、官僚主義的な手続きや汚職が減少することで、ブラジルのビジネス環境は大きく改善することが期待されます。
  • 一方で、特定のESG要因の悪化の可能性があることには注意が必要であり、特に制度面の強さ、社会的結束、持続不可能な慣行といったESG要因の変化について注視しています。

図4:ブラジル:現状と予想 (TGM-ESGI)
2019年2月現在

現状 予想 出所:TGM-ESGI. 中期予想は向こう3年間の予想を意味します。

アルゼンチン

  • アルゼンチンでは、経済再生のために、実施が困難であるものの必要な改革を行う姿勢を維持しています。変動相場制への移行、年金改革の立法化、補助金の削減などの実施は、短期的には痛みを伴いますが、国の長期的な成長にとって極めて重要な政策です。
  • 景気の後退や高水準のインフレ率など、以前にも増して厳しい経済環境にあるにも関わらず、マウリシオ・マクリ政権は2019年の均衡予算案を議会で通過させるなど正統的な経済政策運営を続けています。
  • マクリ大統領と同大統領が党首を務めるカンビエモスは、中核的な支持を維持しています。当該支持基盤と野党ペロン党の分裂の状況に鑑み、10月の大統領選においてカンビエモスの勝利を予想していますが、今後の状況を注意深く見守っています。
  • 現政権は、正確な経済統計の発表や贈賄に関わった企業への制裁などにより、前政権における多くの悪しき慣行の是正に動いています。
  • 変動相場制への移行が天然ガス産業における投資を促進することで、過度な輸入への依存が軽減され、エネルギー問題は改善されると思われます。

図5:アルゼンチン:現状と予想 (TGM-ESGI)
2019年2月現在

現状 予想 出所:TGM-ESGI. 中期予想は向こう3年間の予想を意味します。

ESGスコアの悪化が予想される3ヵ国

イタリア

  • 2018年3月の総選挙において、ポピュリスト政党である「同盟」と「五つ星運動」がかつてない躍進をみせたことで、イタリアはEU内でも益々強固な欧州統合懐疑派になりつつあります。
  • 新政権は、減税、反移民政策、年金改革の廃止などポピュリズム的な政策を掲げています。これらの政策は、国民に人気はあるものの、高水準な政府債務残高や低水準な生産性の伸びといったイタリアが直面する課題に対して有益ではありません。
  • 政府のEUに対する内政不干渉を求める姿勢により、EU本部との摩擦が高まる状況にあります。最初の大きな対立となった2019年度の予算案については、解決がみられましたが、今後さらなる対立が予想されます。
  • イタリアとユーロ圏全体の経済成長が減速するに従い、社会的な軋轢と極右勢力への支持が高まることが予想されます。

図6:イタリア:現状と予想 (TGM-ESGI)
2019年2月現在

現状 予想 出所:TGM-ESGI. 中期予想は向こう3年間の予想を意味します。

トルコ

  • 大統領制への移行により、政府機関等が全般的に弱体化しました。エルドアン大統領は、首相のポストを廃止する一方、上級公務員解雇および裁判官任命などが可能になりました。
  • 2015年以降、行政、軍、司法、メディア、学術などの関係者数万人が処分され、関係機関の運営に深刻な悪影響が及んでいます。
  • 経済政策については、中央銀行の独立性の低下など、誤った政策が行われています。政府支出は、建設や国防といった景気循環産業に集中しており、債務の増大に結びついています
  • 政治・経済の不安定な状況は、海外投資家からの信用の低下につながっています。また、米国や欧州諸国との緊張の高まりも、投資対象としてのトルコの魅力にマイナスの影響を与えています。

図7:トルコ:現状と予想 (TGM-ESGI)
2019年2月現在

現状 予想 出所:TGM-ESGI. 中期予想は向こう3年間の予想を意味します。

南アフリカ

  • 経済のコモディティへの依存が高まるなか、脆弱な財政政策や産業の空洞化がみられるなど、経済ファンダメンタルズは徐々に悪化しています。政府は正統的な改革を行うための十分な政治力を有していません。
  • 低い経済成長と著しい貧富の格差により、経済成長よりも所得の再分配に対する国民の要求が高まっています。この例として、補償き土地収用に関する議論が挙げられます。同国のポピュリズムの高まりは、悪化傾向にある景況感にさらなる悪影響を及ぼしています。
  • アフリカ民族会議(ANC)では、シリル・ラマポーザ大統領とジェイコブ・ズマ前大統領の間で派閥抗争が続いています。ANCは、総意に基づいて政策運営を行うことから、この対立は政権運営の有効性にマイナスの影響を及ぼしています。また、ANCと、連立与党である南アフリカ共産党(SACP)や南アフリカ労働組合会議(Cosatu)との間でも緊張がみられます。
  • ラマポーザ政権は、腐敗の撲滅に取り組んできました。政府は、政府関係機関および特別警察組織ホークスの責任者を解任し、ズマ前大統領に近い富豪グプタ家の一掃に取り組みました。

図8:南アフリカ:現状と予想 (TGM-ESGI)
2019年2月現在

現状 予想 出所:TGM-ESGI. 中期予想は向こう3年間の予想を意味します。

本稿に登場する運用責任者

グローバル・マクロ・ビューは、リサーチ活動に基づきグローバル経済の状況を分析した定期的なリサーチレポートであるグローバル・マクロ・シフトの内容を更新および詳述した補完的なレポートです。Dr. Michael Hasenstabとテンプルトン・グローバル・マクロ・グループのシニア・メンバーによる分析と見解を掲載しています。マクロ経済分析の専門性を有する当チームメンバーによるグローバルマクロ分析により、長期的な市場の不均衡を見出し、投資機会の発掘に結びつけています。

Michael Hasenstab, Ph.D.
Portfolio Manager, Chief Investment Officer, Templeton Global Macro

Calvin Ho, Ph.D.
Portfolio Manager, Director of Research, Templeton Global Macro

Hyung C. Shin, Ph.D.
Senior Global Macro & Research Analyst, Templeton Global Macro

Diego Valderrama, Ph.D.
Senior Global Macro & Research Analyst, Templeton Global Macro

Attila Korpos, Ph.D.
Senior Global Macro & Research Analyst, Templeton Global Macro

Shlomi Kramer, Ph.D.
Senior Global Macro & Director of Research, Templeton Global Macro

Vivian Guo
Research Analyst, Templeton Global Macro