2026年4月
Anant Kumar
マネージング・ディレクター、ヘッド・オブ・米国リサーチ
Benefit Street Partners


足元、プライベート・クレジットは終末論的とも言える厳しい視線にさらされており、約3兆米ドル規模に達した同市場の基盤が揺らぎ始めているのではないか、との見方が示されています。

その根拠として挙げられているのは、詐欺行為に起因する破綻事例、リターンが圧縮されるとの率直な認識、個人投資家による解約請求の増加、さらには人工知能(AI)がソフトウェア企業にもたらす破壊的影響などです。

これらを一本の線で結び、「システミックリスクの兆候」と解釈したくなる誘惑は理解できます。しかし、そうした解釈は、健全な分析というよりも、足元の出来事に過度に影響された直近バイアスによる産物に過ぎません。要するに、プライベート・クレジットの投資家に向かって「黙示録の四騎士」が突き進んでいるように見えるものの、そのうちの三つは幻影です。ただし、一つだけは実在しています。

第1の騎士:詐欺、破綻、そして「ゴキブリ」発言

First BrandsおよびTricolorの破綻は、確かに重大な事例です。これらは、デューデリジェンスの不備や、オフバランス構造を巡る統制の弱さを浮き彫りにしています。ただし、これをもってプライベート・レンディング全体に構造的な信用劣化が生じていると結論づけるのは適切ではありません。

両案件はいずれも、問題の核心に刑事上の詐欺行為があったとされています。不幸なことに、詐欺はあらゆる市場に一定程度存在します。したがって、こうした事案が発覚し、訴追に至ること自体は、制度が機能していることの証左でもあります。

また、First Brandsのタームローンへのエクスポージャーは、主として投資銀行によって引き受けられ、シンジケートされていまた。これは広範な資本市場における出来事であり、プライベート・クレジット固有の問題ではありません。

その後、Jamie Dimon氏による「ゴキブリ(cockroaches)」発言が報じられ、プライベート・クレジットの水面下に他にも問題が潜んでいるのではないかとの疑念を招きました。

しかし、データが示すところは冷静です。信用格付機関KBRAのデータ(2,416社のミドルマーケット借入先、総額1兆米ドル超のダイレクト・レンディング・デットを対象)によれば、周辺部分ではストレスは見られるものの、市場の中央値は総じて安定しています。

ダイレクト・レンディングにおけるデフォルト率は、引き続き広範なシンジケートローン(BSL)市場と同程度にとどまっています。2025年のダイレクト・レンディングのデフォルト率(残高ベース)は1.5%で、2024年の1.8%から低下しました。これに対し、同期間におけるBSL市場のデフォルト率は3.8%に達しています。¹

1. 出所:Cliffwater LLC(2025年12月31日現在)

第2の騎士:リターンの圧縮

ブラックストーンのJon Gray氏が昨年、政策金利の低下とスプレッドの縮小により、シニア・プライベート・クレジットにおいて10%台半ばのリターン達成はより困難になると述べた際、一部からは、資産クラスとしての魅力が低下しつつあるとの声が聞かれました。

しかし、Gray氏が実際に指摘したのは、絶対リターンが景気循環の中の高水準から低下する可能性があるものの、流動性クレジットに対する約150~250ベーシスポイントのプレミアムは、引き続き維持されるだろうという点です。これは、投資家と借り手を直接結び、コストを削減しつつ、柔軟性と確実性を提供できるという、プライベート・クレジットの構造的優位性によるものです。資産クラスの魅力を決めるのは、絶対水準ではなく相対価値です。

リターン圧縮を危機として捉えることは、金利サイクルの正常化と構造的な毀損とを混同しています。2022年から2024年にかけてプライベート・クレジットが高い絶対リターンを実現したのは、FRBによる利上げと変動金利ローンの再価格付けが進んだ結果です。その反転として、FRBが利下げを実施し(イラン情勢以前の想定では)2026年にかけて追加利下げが見込まれる中で、グロス利回りが低下するのは、変動金利商品の仕組み上、自然な帰結です。

リターンが低下し得る一方で信用の質が改善する環境は、債券投資家にとって望ましいトレードオフと言えるでしょう。

第3の騎士:個人投資家と流動性リスク

先月発生した、あるビジネス・デベロップメント・カンパニー(BDC)の注目度の高い事案は、プライベート・クレジットの運用マネジャーが個人向け市場へ進出する中で、構造的な脆弱性があるのではないかとの見方を助長しました。

同社による解約請求への対応には検証の余地がありますし、個別性の高い要因も存在しました。ただし、この事例が浮き彫りにしているのは、むしろ投資家教育と正確なバリュエーションの重要性です。

これらの「セミ・リキッド」型ファンドにおいて一般的に示されている解約方針は、四半期ごとに純資産価値(NAV)の5%とされています。実際に行われた対応は、それを上回る資金を分配するための創意工夫に富んだ手法でした。

同社は、約14億米ドル相当のローンを額面の99.7%で売却し、定期的な分配を通じてファンドNAVの約30%を投資家に還元しました。ローンがほぼ額面通りで売却された事実は、基礎となるポートフォリオ評価が妥当であること、すなわち信用力が健全であったことを裏付けています。

個人投資家を対象とするセミ・リキッドBDCが成長途上にある点については、正当な批判が存在しますが、より一層の教育、商品設計の進化、そして時間の経過によって、こうした課題は解消されると考えられます。

第4の騎士:AIによる破壊的影響

上述の三つの幻影を退けた結果、最後に残るのがAIです。ダイレクト・レンディングのポートフォリオの約20~25%を占めるソフトウェア企業に対し、AIがもたらす破壊的影響のリスクは実在しており、他の三つの騎士とは質的に異なります。

これは過去の事象に起因する個別的な問題ではなく、将来を見据えた構造的なリスクです。KBRAによれば、関連する総デット・エクスポージャーは約2,240億米ドルに達しています。そして、自動化がこれらローンの引き受け時に前提とされた事業基盤を侵食し得る点を踏まえると、このリスクは十分に織り込まれていない可能性があります。

もっとも、ソフトウェアは幅広いセクターであり、競争優位性も多様です。フォーチュン500企業の業務プロセスに深く組み込まれた基幹システムは、限定的なアプリケーション層のソフトウェアとは本質的に異なります。したがって、ディスラプションの影響も一様ではないと考えられます。

投資家は、プライベート・クレジットの運用マネジャーに対して、次の点を問いかけるべきです。ソフトウェアへのエクスポージャーはサブセクター別にどのような構成になっているのか。アプリケーション層と基幹システムの比率はどの程度か。ソフトウェア関連ローンにおけるLTVや償却面での保護条項は十分か。売上が10%減少するケースから、AIによる代替で50%超の深刻な影響を受けるケースまで、さまざまなシナリオでキャッシュフローのストレステストを実施しているのか。

これらこそが問うべき論点であり、問うべきは「プライベート・クレジットは破綻しているのか」ではありません。


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