2026年5月
Anant Kumar
マネージング・ディレクター、
ヘッド・オブ・米国リサーチ
Benefit Street Partners
ボラティリティが生み出すダイレクト・レンディングへの魅力的な投資機会
現在のダイレクト・レンディングに対する投資家心理の悪化は、2022年の環境を想起させます。当時は、金利上昇、根強いインフレ、景気後退への懸念が重なり、リスク資産全般から資金が流出しました。足元でも、同様の不安感が広がっています。これに加え、プライベート・クレジットにおけるソフトウェア関連エクスポージャーへの警戒感の高まりや、地政学的緊張の激化が商品市場を混乱させ、マクロ経済の先行きを不透明にしています。
成長見通しはまだ本格的な景気後退を織り込む水準まで下方修正されてはいないものの、投資家の信頼感は大きく低下しており、先行きの不確実性は依然として高い状況です。中央銀行が慎重な姿勢を維持する中で金利は高止まりしており、さらに人工知能(AI)の急速な進化は、影響を定量的に把握しにくい新たな不確実要因となっています。その結果、流動性志向の高まりと、エバーグリーン型ダイレクト・レンディング戦略における解約増加という、既視感のある動きが見られています。解約水準はすでに2022年のピークを上回り、2026年に入り加速しています。
重要な点として、こうした解約の波は、ファンダメンタルズの悪化というよりも、投資家心理に大きく左右されていると考えられます。資本は、信用状況の広範な悪化を示す明確な証拠ではなく、「認識」や「不安」に基づいて引き揚げられている状況です。歴史的に見ても、このような局面こそが、最も魅力的な投資実行機会を生み出してきました。
2022年には、銀行が融資姿勢を大きく後退させたことで資金供給にギャップが生じ、ダイレクト・レンダーがその需要を取り込む好機となりました。市場における資金提供者が減少する中で、ダイレクト・レンダーは交渉力を高め、スプレッドの拡大、契約条件の厳格化、そして経済条件の改善を実現しました。現在も、案件ファイナンスにおいてダイレクト・レンディングへの段階的なシフトが見られており、今後さらなる投資機会の創出が期待されます。
前回の市場のディスロケーション(混乱)は、魅力的な投資の入口をもたらすと同時に、その後の堅調なパフォーマンスに向けた基盤を築きました。このため、2022年は、市場ストレス下においても規律ある投資実行を行うことで、実質的な投資機会へと結び付いた重要な局面として際立っています。
2022年には、BDC(BusinessDevelopment Company)の株価純資産倍率(PBR)が概ね0.8倍まで低下し、トータル・リターンは▲8.9%となりました。その後、2023年には+26%の反発を記録しており、バリュエーションの底打ちが、その後の急速な回復に先行するという、過去に繰り返し見られてきたパターンが確認されました。現在の環境も非常によく似ています。PBRは再び2022年当時の水準に近づきつつあり、足元の下落率は▲19%に迫っています。
現在の市場環境は、過去と同様の投資環境が形成されつつあることを示唆しています。ダイレクト・レンディングは、従来、シングルB格付け債利回りに対して150~200bpの流動性プレミアムを獲得してきましたが、そのシングルB利回りは一時的に数年ぶりの低水準まで低下した後、2026年に入り再び拡大しています。足元では、ダイレクト・レンディングにおいても同様のリプライシング(価格再調整)が進みつつある兆しが見られ、新規案件におけるスプレッドの改善や、より魅力的なリスク調整後リターンが期待されます。
このような環境下では、ファンダメンタルズを重視した厳格な投資アプローチを維持する投資家にとって、規律あるクレジット選別が極めて重要となります。市場が不安定な局面では、より保守的で、価格面でも有利な条件で資本を投下できる好機が生まれます。過去のディスロケーション局面と同様に、ボラティリティの高まりは従来型の貸し手の活動を制約し、競争環境を緩和することで、ダイレクト・レンダーが案件を厳選し、条件面で主導権を握ることを可能にします。
こうした環境は、より高品質なクレジットへの投資機会を支え、より広いスプレッド、強固な契約構造、下方リスクの抑制強化につながります。その意味で、不確実性の高い局面は、単に乗り切るべきものではなく、積極的に活用すべき局面です。厳格な審査を行う規律と、投資を実行する確信を備えた投資家にとって、現在の環境は資本を投下するうえで非常に魅力的な機会を提供しています。
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