豪州森林火災はNSW州やVIC州で被害が拡大

2019年11月以降、被害が深刻化する豪州の森林火災により、東京都面積の約50倍の約1,000万ヘクタール(約10万平方キロメートル)が焼失したとされています。通常、豪州の夏場の森林火災は北東部クイーンズランド州で発生する傾向があるものの、2019-2020年の森林火災は人口が集積するニューサウスウェールズ(NSW)州やビクトリア(VIC)州で被害が拡大していることに特徴があります。

2009年のVIC州の森林火災のケースが指針に

今回の森林火災の豪州経済への影響を考えるに当たっては、森林火災がなお終息に向かっていない不透明感はあるものの、2009年のビクトリア州での大規模な森林火災(通称「ブラック・サタデー」)のケースが指針となりそうです。

2009年のビクトリア州森林火災では、焼失面積は45万ヘクタールに留まったものの、2,133戸の住宅焼失や173人の犠牲者を生む深刻な被害がもたらされました。その後の王立委員会の調査によれば、ビクトリア州の森林火災の経済的損失は43.7億豪ドルと推定されています(図1)。

森林火災の直接的な影響は限定的に留まるか

一方、今回の森林火災被害の全体像は依然として明らかではないものの、現時点で森林火災被害による保険金請求額が13.4億豪ドルに達していることから、経済的損失は少なくとも2009年を上回る50億豪ドル程度(GDP比0.2~0.3%程度)にまで拡大する可能性がありそうです。

今回の森林火災で焼失した地域のほとんどは人口が希薄で、農地や都市部でもないことから、森林火災による経済への直接的な影響は限定的に留まるとの見方があります。もっとも、今後は森林火災や都市部での大気汚染による消費者心理の冷え込みや観光への打撃など、間接的な影響への注意は引き続き必要と考えられます(図2)。

ビクトリア州の森林火災からの経済復興の経験

2009年のビクトリア州の森林火災の経験からは、森林火災による豪州経済への悪影響が長期化することは避けられるとみられ、むしろ中期的には森林火災被害からの復興需要が景気の押し上げ役になると考えられます。

2009~2010年のビクトリア州の景気動向を見ると、同州での森林火災が深刻化した2009年1-3月期の最終需要(GDPの主要構成項目)は前期比0.9%のマイナス成長に見舞われました(図3)。しかし、4-6月期には早くも民間消費が回復に転じたほか、2009年後半から2010年にかけては復興需要などに伴う公共投資や住宅投資がビクトリア州の経済成長の押し上げに寄与しました。

経済復興を進める豪州政府の政策余地は大きい

一方、今回のケースでは、財政健全化が進む豪州政府の財政状況を背景に、森林火災被害への支援や今後の経済復興に向けた政策発動余地は大きいと考えられます。

2019年12月時点の豪州政府の計画では、2019年度(2019年7月~2020年6月)の財政収支は50.3億豪ドルの黒字に転じると見込まれています(図4)。2020年1月には、モリソン首相は目先の財政黒字化よりも森林火災からの復興を優先させる方針を表明しました。

2020年後半にかけては、財政政策を主導にした復興需 要が豪州景気の回復をけん引すると期待されます。

鉄鉱石価格上昇は今後の景気刺激策の追い風

加えて、高水準での推移が続く鉄鉱石価格が今後の豪州政府の景気刺激策にとっての追い風となりそうです。

現在の豪州政府の予算計画では、2020年6月末の鉄鉱石価格の見通しは1トン当たり55米ドルという保守的な前提が置かれています。一方、中国での底堅いインフラ需要などを背景に、足元の鉄鉱石価格は90米ドル台後半で推移しています。予算前提を上回る鉄鉱石価格の状況が続けば、5月に公表予定の政府予算案では財政見通しが上方修正される公算が高まるとみられます。

すでにモリソン政権は連邦政府予算として20億豪ドル規模の復興支援を表明していますが、経済復興を後押しするため、公共インフラ投資や所得税減税前倒しなどの景気刺激策が打ち出されるかにも注目が集まりそうです。

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