中国を中心に拡大する新型ウイルスの感染者数

中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスの中国での感染者数は17,205人(2月2日時点)に達し、2003年に発生したSARSを上回るペースで感染者が拡大しています(図1)。世界保健機関(WHO)は1月30日、新型コロナウイルスが中国や他国でも拡大していることを受けて、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。

新型ウイルスの感染拡大で投資家心理が悪化

新型ウイルス感染者の拡大が豪州に与える短期的な影響としては、以下の二つの経路が想定されます。

第一に、金融市場への心理的な悪影響です。足元では、新型ウィルスの感染拡大によって投資家心理が悪化し、豪ドル相場や豪州株の値動きが不安定になりつつあります。

SARSの経験では金融市場への影響は限定的に

もっとも、2002年から2003年にかけて感染者が世界的に拡大したSARSの経験では、豪州の金融市場への悪影響は短期的かつ限定的に留まりました。

SARSは2002年11月に中国広東省で最初の感染が発生したことをきっかけに、香港や北京などから世界的に拡大し、2003年3月16日にはWHOがSARS流行への世界的警報(グローバル・アラート)を発令しました。この間の豪ドル相場や豪州株は、SARS拡大に伴う不透明感などから一時的に弱含む局面はみられたものの、WHOがSARSの終息宣言を公表した2003年7月にかけて市場の回復(豪ドル高、豪州株高)が進みました(図2)。

一方、今回の新型ウイルスのケースでは、今後の中国および各国政府によるウィルス抑制策が奏功し、次に挙げる豪州の実体経済への影響が限定的に留まることが確認されれば、投資家心理が持ち直しに向かう可能性もあります。

中国政府は豪州を含む海外への団体旅行を禁止

新型コロナウイルスが豪州経済に与える影響の第二の波及経路としては、中国からの旅行客数減少によってインバウンド消費が減速し、豪州の実体経済に直接的なマイナスの影響が及ぶ可能性が懸念されます。

中国政府は1月25日、新型ウイルスの拡散を防止するため海外への団体旅行を禁止する措置(個人旅行は対象外)を公表しました。豪州の現地報道によれば、中国の旅行ツアー会社は中国当局より2カ月間の海外団体旅行の禁止を命じられた模様であり、少なくとも2020年3月頃までは豪州の観光産業に悪影響が及ぶとみられています。

外国人訪問者の年間インバウンド消費額は2019年9月時点で640億豪ドル(GDP比3.2%)に達しており、観光産業が豪州経済に及ぼす影響度は近年は増しつつあります。

豪州経済への悪影響は限定的に留まる可能性

もっとも、次の3つの背景から、新型ウイルスの感染拡大が長期化しなければ、中国からの訪問者数減少による豪州経済への悪影響は限定的に留まるものと考えられます。

第一に、豪州への外国人訪問者数の中でも、中国からの訪問者数は約15%を占めるに留まり、必ずしも中国人観光客への依存度は高くはないと言えます(図3)。

第二に、豪州でのインバウンド消費の内訳を見ると、近年は海外からの留学需要の高まりから教育関連支出が拡大傾向にあります。中国人旅行客減少の直接的な影響を受けやすい個人旅行関連支出は、インバウンド消費全体の約35%に留まっています(図4)。

第三に、過去のSARSの経験からは、新型ウイルスの感染が終息に向かう過程では、豪州への外国人訪問者数は回復に向かう可能性が残されています。2002~2003年の局面では、豪州への外国人訪問者数はWHOが世界的警報を発令した2003年3月から5月にかけて急減した一方、SARSの新規感染が終息に向かった2003年6月以降は外国人訪問者数は急回復に転じました(図5)。

新型ウイルスの中国での感染被害の状況や周辺諸国への拡散の行方には引き続き注視が必要ですが、豪州の実体経済への影響には冷静な評価が必要と言えそうです。

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