19年の豪州REITは堅調なパフォーマンスを記録

2019年の豪州REIT(S&P/ASX300REIT指数)は株価上昇率で+14.2%、配当込のトータル・リターンで+19.6%と堅調なパフォーマンスとなりました。2020年初も好調な流れを引き継ぎ、2月上旬~中旬の決算発表などが好材料視され、豪州REITは底堅い推移が続いてきました。

世界的株安の影響が豪州REITの急落にも波及

しかし、2020年2月下旬に入り、新型コロナウイルスの世界的感染への市場の不透明感が高まると、世界的株安の流れの中、豪州REITにも調整圧力が及びました(図1)。

豪州REITは年初来高値を付けた2月20日から2月28日までの下落率が8.6%となり、年初来の上昇分をほぼ失う結果となりました(2月28日時点の年初来での株価上昇率は+0.9%、トータル・リターンは+1.3%)。

金利低下によって豪州REITの投資妙味高まる

一方、世界的な市場の不透明感の高まりから、豪10年国債利回りは2月28日には過去最低の0.82%へ低下しました。こうした低金利の進行はリスクオフ相場の現れと言えますが、ひとたび市場が落ち着きを取り戻せば、再びイールド・ハンティング(利回り追求)の投資需要が高まる素地が形成され始めたことを示唆しています。

実際、足元の株安により豪州REITの予想配当利回りは4.86%へ上昇しており、インカム収益の面で豪州国債と比較した豪州REITの投資妙味が高まっています(図2)。

短期的には新型コロナウイルスを巡る世界の市場環境には慎重な評価が必要とみられます。しかし、今後、新型ウイルスの感染一巡や各国の景気支援策などをきっかけに市場の混乱が終息に向かう道筋が見えれば、豪州REITへの投資の好機が生まれる可能性もありそうです。

豪州REITの決算では大方の銘柄が増益を達成

豪州REITのファンダメンタルズに関しては、直近の決算発表において豪州REITの底堅い収益が確認されています。

図3は主要な豪州REIT(海外不動産を主要資産とするREITは除く)の中間決算および本決算の結果をまとめたものです。9銘柄中7銘柄の主要な豪州REITは、決算での利益が前年を上回る増益を達成しました。

決算で好調な収益を出した主要な豪州REIT

以下は、今回の決算発表において好調な収益を出した大手の豪州REITの例です。

【デクサス・プロパティ・グループ】 主力のオフィス事業を中心に、賃料引き上げや開発物件の竣工、新規の物件取得などにより収益が堅調に拡大。

【ミルバック・グループ】 住宅販売の好調やオフィス賃貸事業の安定したキャッシュフローが業績を下支え。

【チャーター・ホール・グループ】 グループ傘下の各種不動産ファンドの資産拡大が収益をけん引。

【GPTグループ】 物件取得・開発を進める物流部門が収益の押し上げに寄与。オフィス部門の収益も安定。

一方、ビシニティ・センターとストックランドの決算では、いずれも非中核資産の売却を主要因に減益となったものの、基調的な収益基盤は底堅さを維持しているとみられます。

【ビシニティ・センター】 非中核資産の売却が減益要因。主力の商業施設ではテナント売上高は堅調に拡大。

【ストックランド】 非中核資産の売却が減益要因。住宅市場の回復を追い風に、2020年には住宅事業を主導に収益改善を見込む。

豪州REITの収益は今後も安定拡大が見込まれる

ファクトセット集計の市場コンセンサスでは、主要豪州REITの営業キャッシュフローは2020年度に大幅な増益へ転換した後、2021年度以降も高水準の収益が見込まれています(図4)。

足元の豪州REITの株価は新型ウイルス要因の市場心理悪化により売り込まれているものの、保有不動産からの安定したキャッシュフローが見込まれる点は豪州REITの再評価ポイントになると考えられます。

豪州REITの保有不動産価値が株高を正当化

一方、豪州REITのバリュエーションの面では、主要豪州REITの純有形資産(NTA)倍率は2019年末時点で10.8%へ上昇しています。しかし、NTA倍率は2014~2016年の水準(15~16%)をなお下回る水準にあり、豪州REITの株価の割高感は限定的とみられます(図5)。

豪州REITの本源的価値である保有不動産の評価向上が、近年の豪州REITの株価上昇を正当化する要因になっていると考えられます。例えば、豪州REIT(主要13銘柄)の2015年末から2019年末までの一株当たりNTAの平均上昇率は+31.2%(年率+6.9%)であったのに対して、同期間の平均株価上昇率は+29.4%(年率+5.9%)でした。

純有形資産(NTA、Net Tangible Asset)

REITが保有する不動産などの有形資産の時価評価額から負債を差し引いたもの。NAV(Net Asset Value)に類似したREITの保有資産価値を測る指標。豪州ではNTAが一般的に使用される。

豪州REITの株式資金調達と投資が活性化

また、豪州REITは2019年の株価上昇局面を活用し、総額53.1億豪ドル(約3,700億円*)の積極的な株式資金調達を実施しました(図6)。こうした豪州REITによる2019年の株式資金調達は、リーマンショック直後の2009年以来の活発な取引となった模様です。

大規模な資金調達を背景に、豪州REITによる新たな物件取得や開発の動きが活性化しつつあることは、今後の豪州REITの収益押し上げ要因になると期待されます。(*)換算レート:1豪ドル=70円

主要豪州REITは20年度に安定した増配を計画

最後に、図7は今回の決算発表期において2020年度の配当ガイダンス(会社予想)を公表した主要豪州REITです。

銘柄によって配当成長率に差はあるものの、大半の豪州REITが2020年度に前年比+1~6%程度の安定した増配を計画していることが分かります。「期待トータル・リターン≒配当成長率+配当利回り」と考えると、主要な豪州REITは5~10%程度のトータル・リターンが期待される投資対象であると考えられます。

新型ウイルスに関わる不透明感が増し、低金利が進む市場環境では、安定した利益や配当が見込まれる豪州REITは市場から再評価される可能性もありそうです。

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