世界的なREIT下落の中、豪州REITも大幅に調整

新型コロナウイルスの感染拡大を巡る混乱が広がる中、世界的に不動産投資信託(REIT)の急落が顕著です。3月23日時点では、豪州REITの年初来下落率が43.9%に拡大しているほか、米国REITやJ-REITも年初来で40%弱の大幅な下落となっています(図1)。

3月以降、世界的にREITの急落が広がる背景には、次の二つの要因が複合的に関連しているとみられます。

世界的な金利上昇懸念がREITの下落要因に

第一に、世界的な金融市場の混乱による投資家心理の悪化です。特に3月中旬以降の世界的な株安の連鎖局面では、投資家の現金確保志向が強まり、金融市場で株安と金利上昇圧力(国債への売り圧力)が同時発生する不安定な状況が生まれました。各国のREIT市場では金利上昇懸念がREITの下落に拍車をかけたとみられます。

各国の経済封鎖策によりREIT収益の懸念が浮上

第二に、新型ウイルスの感染拡大を抑制するため、各国政府が人の移動や集会を制限する経済封鎖策を打ち出したことで、REITの保有不動産(商業施設、オフィス、物流施設等)のキャッシュフローへの影響を懸念する見方が浮上しつつあると考えられます。

実際、豪州では政府による新型ウイルスの感染防止策として、3月23日よりレストラン・カフェ内での飲食が禁止され、映画館やカジノ、ジム、パブなど人が多く集まる一部施設の閉鎖が決定されています(図2)。

ただし、豪州REITが保有・運営するショッピングセンターに関しては、映画館やジムなどの施設の部分閉鎖を行うことで、現時点では営業継続が許可されている模様です。

豪州REITは解散価値を大きく下回る割安水準に

また、豪州REITの株価純資産倍率(PBR)は、3月23日時点で0.64倍まで急低下しています(図3上段)。PBR=1倍はREITの株価と解散価値が等しくなる水準であることから、現在の豪州REITの株価は保有資産の解散価値を大きく下回る割安な水準にあることが示されています。

純資産の大幅下落を考慮した修正PBRでも割安

ここで懸念されるのは、豪州での新型コロナウイルスの感染拡大による個人消費の低迷などから、豪州REITの先行きの収益低下が一株当たり純資産の下落に波及する可能性があることです。過去、純資産が大きく下落したケースとしては、2008年のリーマンショック後の事例が参考になりそうです。リーマンショック後の2008年末から2009年末までの一年間で、豪州REITの一株当たり純資産は32%の下落に直面しました(図3下段)。

このリーマンショック後と同等の純資産の下落(-32%)という保守的な想定を現在の豪州REITのPBRに当てはめてみると、修正PBRは0.93倍と依然として解散価値を下回る割安な水準にあると推定されます。実際に豪州REITの純資産がどの程度下落するかは不透明ですが、この推定は豪州REIT安が行き過ぎている可能性を示唆しています。

08年から大きく改善した豪州REITの財務基盤

また、リーマンショック前後と現在の豪州REITの違いとして、財務基盤の健全性の大幅な改善が挙げられます。

リーマンショック前の豪州REITは負債への依存度(レバレッジ)を高め、海外不動産にも積極的な投資を行っていました。しかし、リーマンショック後には高い負債依存度が裏目に出たことで、豪州REITは海外不動産の売却を含む大規模なリストラを余儀なくされました。

一方、現在の豪州REITの保有不動産は、一部銘柄を除けば豪州国内不動産が中心であり、足元の負債比率は3割以下の低水準に抑えられています(図4)。豪州REITの保守的な負債比率は、不動産価格下落などの経済ショックへの耐性の高さを示すものです。

今後、豪州政府による感染抑制策と財政刺激策によって豪州景気の底割れが回避されれば、市場からの豪州REITへの見直しが進む可能性もありそうです。

アクセスランキング

※直近15日間で閲覧数の多いマーケット情報をランキングしています。

動画ライブラリー

マーケット情報やファンドの運用報告等を、動画でお届けしています。


サイトマップ
Top