コロナ危機前の水準へ回復する豪ドル相場
豪ドル相場は世界的にコロナ危機が深刻化した3月に一時は1豪ドル=0.57米ドルまで急落したものの、足元では1豪ドル=0.67米ドル近辺のコロナ危機前の水準を概ね回復しています(図1)。また、豪ドルの対円相場も、足元では1豪ドル=71円台まで持ち直しの傾向にあります。
足元での豪ドル相場の回復を支える要因として、①豪州のコロナ問題が早期の終息から経済活動再開に焦点が移り始めたこと、②豪州国債の発行増に対して海外投資家の信認が根強いこと、③資源輸出の堅調から豪州の貿易黒字が過去最高額を更新していること、が挙げられます。
①豪州では早期の経済活動再開が視野に入る
豪州政府は5月8日、国内での新型コロナウイルスの感染抑制の進展を受けて、「2020年7月の本格的な経済活動の再開」という目標に向けた行程表を公表しました(※)。
豪州政府の行程表で示された第一段階~第三段階の規制解除のタイミングや範囲の判断は各州政府に委ねられており、すでに各州は5月中旬にかけてレストラン・カフェなどの営業再開や集会規制の緩和を含む経済活動の再開に舵を切っています(図2)。さらに、すでに一部の州は6月以降の一段の規制解除を公表し始めています。
●南オーストラリア州政府は第二段階の規制解除時期を当初計画の6月8日から6月1日へ前倒し(映画館、劇場、美術館、美容サロン、ジムの営業再開を認可)。
●NSW州のレストラン・カフェは、6月1日より一定基準を満たせば顧客を50人まで受け入れ可能に。
●ビクトリア州のレストラン・カフェでは、6月1日より顧客20人まで、6月22日より50人までの受け入れが可能に。
(※)参照マーケット・レター(2020年5月8日付)「豪州準備銀行は年後半以降の景気回復シナリオを想定」
②豪州国債に対して海外投資家の根強い信認
足元で増額傾向にある豪州国債の発行に対して、国内外の投資家の需要は底堅さが維持されている模様です。
直近5月13日に実施された豪州国債の大規模発行では、190億豪ドルの発行額に対して応札額が534億豪ドルに拡大し、国債発行の安定消化が達成されました。
さらに、190億豪ドルの発行額のうち46.2%(87.7億豪ドル)は海外投資家による取得が占め、海外投資家からの豪州国債への信認が依然として根強いことが示されました(図3)。今後も財政刺激策の資金調達のため豪州国債の増発が見込まれる中、海外投資家による豪州国債投資が豪ドル相場の下支え役になると期待されます。
③豪州の貿易黒字は過去最高額を更新
豪州の3月の貿易収支は+106億豪ドルと過去最高の黒字額を更新しました(図4)。高水準の貿易黒字が実需面から豪ドル相場を支える要因になっていると考えられます。
豪州の貿易黒字の主因となったのは鉄鉱石や金などの資源輸出の拡大でした。特に鉄鉱石に関しては、中国の港湾在庫が2016年10月以来の低水準にあり、インフラ投資など面で中国経済の復興関連需要が増しているとみられています。足元でも豪州の中国向け鉄鉱石価格は1トン当たり100米ドル近辺の高水準にあります(図5)。
豪中貿易問題は通商交渉による解決に注目
足元での豪州と中国の間の貿易問題の再燃は、今後のリスク要因として注視は必要ですが、豪ドル相場に直ちに悪影響を及ぼすものではないとみられます。
中国政府が5月中旬に公表した豪州産牛肉・大麦への輸入規制は豪州の輸出全体への影響は限定的であり(次頁図6)、貿易問題は依然として初期段階にあると考えられます。仮に貿易問題がエスカレートすれば、最悪の場合には中国政府の輸入規制が豪州産鉄鉱石に向かう可能性も否定はできないものの、高品質な豪州産鉄鉱石の代替輸入先を見つけることは現実的に困難とみられています。鉄鉱石の供給不安が高まることは、復興を進める中国経済にとって大きな悪影響を及ぼす可能性もあります。
豪州と中国は相互依存の経済関係にあることから、今後は両国政府による通商交渉によって貿易問題の解決が図られるかに注目が集まりそうです。
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