世界的な市場の混乱から急落したブラジル株

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と原油相場急落による混乱が広がる中、足元ではブラジル株やレアル相場の急落が顕著となっています。

主要株価指数のボベスパ指数は1月23日に付けた史上最高値(119,528ポイント)から3月11日には85,171ポイントまで28.7%の大幅下落に見舞われました(図1上)。

ブラジル株式市場から海外投資家の資金が流出

足元でのブラジル株の急落を主導している一因として、世界的な新型コロナウイルス問題による不透明感を嫌気した海外投資家の資金流出の影響が挙げられます.。

2020年のブラジル株式市場における海外投資家の累積資金流出額は、3月6日時点で460億レアル(約1兆円*)に拡大しました(図1下)。これはリーマン・ショックが発生した2008年通年のブラジル株式市場からの海外投資家の資金流出額(246億レアル)を上回る規模です。(*)換算レート:1レアル=23円

レアル相場は史上最安値へ下落

為替市場では、レアルの対米ドル相場は3月11日に1米ドル=4.82レアルの史上最安値に下落したほか、対円相場も1レアル=22円台へ調整しています(図2)。

ブラジル中銀はレアル相場の急落に対応するため、通貨スワップ介入やスポット市場での為替介入などを組み合わせながら、レアル安圧力の緩和に動いています。

ブラジル中銀は3月9日に合計34.65億米ドルのスポット介入を実施し、3月10日も20億米ドルのスポット介入を継続しました。さらに、ブラジル中銀はレアル相場が史上最安値を付けた3月11日には、10億米ドルの通貨スワップ介入を実施した上で、3月12日に15億米ドル規模のスポット介入を実施することを予告しました。

金利安定はブラジル経済の正常な状態を示唆

3月11日にはブラジルの10年国債利回りは世界的な市場混乱を受けて8.29%へ上昇しました(図3)。

もっとも、ブラジル中銀の金融緩和や低水準の期待インフレ率などを背景に、2年国債利回りは安定が維持されており、ブラジル国債市場としては金利上昇は限定的に留まっています。ブラジル国債市場における金利安定はブラジル経済が依然として正常な状態を保っていることを示唆するものと考えられます(図3)。

レアル相場急落でもインフレ期待は低水準を維持

過去のブラジル経済であれば、レアル安加速をきっかけに「インフレ懸念→金利上昇→中銀の金融引き締め→景気減速懸念→国民不安」という負のスパイラルに陥る傾向がみられました。

しかし、インフレ連動債から計算されるブラジルの期待インフレ率は低水準が維持されていることなどから、現在のブラジル経済の状況は、レアル安が進む中でもインフレ懸念の台頭は引き続き限定的に留まっている模様です。

ブラジルの信用リスクはメキシコとの格差は安定

また、国債の信用リスクを表すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドに着目すると、米ドル建てブラジル国債のCDSスプレッドは3月11日時点で217.62ベーシス・ポイント(bp)へ上昇しています(図4)。

しかし、足元では同じ中南米のメキシコ国債のCDSスプレッドも同様に急上昇しており、ブラジルとメキシコの信用格差は足元でも大きな変化はみられません。このことは、ブラジル国債の信用リスク上昇がブラジル固有の国内要因によるものではないことを示唆しています。

予想PER低下でブラジル株に割安感が生まれる

また、世界的なリスクオフによる株安・通貨安を受けて、ブラジル資産には割安感も生まれつつあります。

ブラジル株の12カ月先予想PERは3月11日には2019年5月以来の低水準の10.50倍へ低下しました(図5)。予想PER低下はブラジル株が近年のバリュエーション・レンジの下限近くの評価がなされていることを示しています。

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かい、世界の市場環境が安定化する過程では、ブラジル市場が見直される可能性も残されていると考えられます。

ブラジル中銀は為替介入の余力を多く残す

また、今後、レアル相場の急変動が一段と高まるリスクに対しては、ブラジル中銀は豊富な外貨準備を背景に為替介入の発動余地を多く残していると考えられます。

2020年2月末時点のブラジル中銀の外貨準備高は3,625億米ドル(約38兆円*)です。これは国際通貨基金(IMF)が推定する外貨準備高の適正水準を約6割も上回り、ブラジル中銀が約1,400億米ドル(約15兆円*)弱もの為替介入の余力を残していることを示唆しています(図6)。

為替市場への高い影響力を保持するブラジル中銀には、レアル相場の急変動が金融危機に発展するリスクを防止する「通貨の番人」としての役割が期待されます。(*)換算レート:1米ドル=105円

ブラジル景気は依然として回復局面の初期段階

2015年から2016年にかけて政局の混乱による景気後退に直面したブラジル経済は、政権交代を契機にした景気回復局面の依然として初期段階にあると考えられます。

2019年10-12月期のブラジルの実質GDP成長率は内需主導で前年比+1.7%へ回復が進みました(図7)。直近の市場予想では、2020年後半以降には前年比2%台への景気回復の進展が見込まれています。

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、短期的には輸出減速などを通じてブラジル景気にも悪影響が及ぶ可能性はあるものの、内需主導の景気回復基調は今後も維持されると期待されます。

金融緩和を追い風に民間銀行の貸出が拡大

特に2020年以降のブラジル景気の回復を支える要因として、ブラジル中銀による金融緩和の効果が挙げられます。

ブラジル中銀の積極的な利下げやボルソナロ政権の公的銀行改革(公的銀行の資産圧縮)という追い風を受けて、足元では民間銀行セクターがブラジルの銀行貸出の拡大をけん引する傾向にあります(図8)。

今後は税制改革などの議会審議の行方にも注目

また、コロナ・ショックによる海外投資家の資金流出を目の当たりにしたことで、ボルソナロ政権の経済運営チームや議会幹部の間では一段の経済改革推進への危機感が増しているとみられます。今後は税制改革や行政改革などの議会審議の行方にも注目が集まりそうです。

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