足元のレアル相場の下落の背景にある4つの要因

世界的に新型コロナウイルスの感染が広がる中、ブラジルのレアル相場の下落が顕著となっています。

4月22日にはレアルの対米ドル相場は1米ドル=5.46レアルと史上最安値を更新し、対円相場も史上初の1レアル=19円台へ下落しました(図1)。

3月以降のレアル相場の大幅な調整の背景には、次の4の要因があると考えられます。

①新興国への投資家の慎重姿勢

第一に、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によって市場の不透明感が高まり、新興国に対する投資家の慎重姿勢がレアル安要因となっている可能性があります。

また、3月中旬に世界中の金融・実物資産が売り込まれる流動性危機の様相が強まった際には、米ドルの流動性を確保しようとする投資家の選好が強まったこともレアルなど新興国通貨の下落に拍車をかけたと考えられます。

②コロナ危機によるブラジル景気見通しの悪化

第二に、ブラジル国内での新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気見通しの大幅な悪化が挙げられます。

ブラジルでの新型コロナウイルスの新規感染者数は、4月中旬以降は一日当たり2,000~3,000人前後のペースで増加する傾向にあり、累積感染者数は4月22日時点で45,757人に到達しました(図2)。

新型ウイルスの感染抑制のため、主要都市では経済活動の制限措置が継続されていることから、足元では景気見通しが下方修正される傾向にあります。直近4月17日時点の市場予想では、2020年のブラジルの実質GDP成長率は-2.96%と予想されており、短期的にはブラジルでも景気後退が不可避の状況となっています(図3)。

③ブラジル中銀の追加利下げ観測が台頭

第三に、ブラジル中銀による追加利下げ観測の台頭が一段のレアル安要因となったと考えられます。

ブラジル中銀のロベルト・カンポス・ネト総裁が4月20日の現地紙主催のビデオ会合で追加利下げを示唆する発言をしたことを受けて、次回5月6日のブラジル中銀の金融政策委員会(COPOM)では0.5~0.75%の利下げが実施されるとの観測が市場で高まりつつあります。

④保健相交代を巡る政治的な不透明感の高まり

第四に、コロナ問題を巡る政治的混乱もレアル相場の不透明感を高める一因となっている可能性があります。

4月中旬には、厳格な隔離政策の継続を主張するマンデッタ保健相と経済活動の早期再開を求めるボルソナロ大統領との間の対立問題が発生しました。結果、マンデッタ保健相は4月16日に大統領により解任され、ネルソン・タイシ氏が新保健相に就任しました(図4)。

もっとも、タイシ新保健相は当面は現在の隔離政策を維持する方針を示しています。国内外のメディアの話題となった保健相交代問題が一巡したことで、ボルソナロ政権がコロナ問題への対応に一丸となることが期待されます。

海外投資家の資金流出圧力が後退する兆し

一方、コロナ問題を巡る悪材料が徐々に市場で織り込まれるにつれて、海外投資家のブラジル株式市場からの資金流出圧力は徐々に後退する兆しがみられます(図5)。

当面のところは、深刻化しつつあるブラジルでの新型コロナウイルスの感染拡大がどのタイミングで最悪期を脱するかが市場の焦点となりそうです。

財政・金融政策の発動余地広げる法案審議進む

また、ブラジル議会ではコロナ危機に対する財政・金融政策の発動余地を広げるための戦時予算法案の審議が大詰めを迎えるなど、前向きな変化もみられます(図4)。

戦時予算法案は、コロナ対策支出を通常予算から切り離すことを例外的に認め、機動的な財政運営を可能にするものです。金融政策の面では、ブラジル中銀に対して国債および社債の買い入れを行う権限を付与する新たな緩和措置が法案に含まれており、今後はブラジル中銀による量的緩和政策の行方にも注目が集まると考えられます。

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