本稿は、世界中で展開されている「アメとムチ」のアプローチについて、フランクリン・テンプルトンのエグゼクティブ・ヴァイスプレジデントであるユウ(ベン)・メンと、フランクリン・テンプルトンのグローバル・サステナビリティ責任者のアン・シンプソンが執筆し、に掲載されたものです『Carbonomics:thepathtonetzero,OMFIFSustainablePolicyInstituteJournal,Winter2023』。

二酸化炭素の排出量を削減するための取り組みが不十分であると感じる人もいるかもしれませんが、当社は、自信の持てるポジティブな気運を感じています1。市場経済においては、利益は強力な動機付けとなります。再生可能エネルギーによる電力は、今や化石燃料によるエネルギーよりも収益性が高くなっています。しかし、このようなグリーン投資がもたらす利益は、たまたま発生したわけではありません。補助金というアメとカーボンプライシング(炭素税や排出量取引などにより炭素に価格を付けること)というムチの両方による政府のインセンティブが資本を呼び込むことで、このような状況を引き起こしたのです。

ドイツや中国などの政府は、太陽光発電(PV)生産の活性化のために、融資保証や固定価格買取制度などのアメを長い間使用してきました2。中国では、メーカーは補助金付きの土地、近代的な製造インフラ、特別融資、減税を利用することができました。中国の産業面におけるアメは、2000年から2016年の間に、太陽光発電の生産規模を500倍に拡大することに貢献しました3。イノベーションのメカニズムを研究する経済学者たちは、スケールメリットと実践を通じた学習の組み合わせが、クリーンエネルギー技術全体のコスト削減と品質向上に大きな役割を果たすという事実を明らかにしています4

化石燃料と比較した再生可能エネルギーによる電力の劇的な競争力の変化について考察してみます。2010年から2021年にかけて太陽光発電の電力コストは88%低下し、図表1に示すように、現在では化石燃料による電力コストを下回るようになりました5。この価格であれば、発電所にとって太陽光発電は石炭やガスによる火力発電よりも収益性が高いと言えます。インド最大の電力会社が、2032年までに60ギガワットの太陽光発電の建設を約束したのも、グリーン投資がもたらす利益を視野に入れてのことです6

アメがグリーン投資による利益を拡大させるなら、カーボンプライシングのような規制的なムチは、排出量に対処するための補足的な別の方法を提供します。理論的には、炭素市場は政府の補助金よりも効率的で、過剰生産能力につながる可能性もあります。欧州連合(EU)は世界最大かつ初の主要な炭素市場を運営しており、2021年に発足した中国の炭素市場もそれに続くものです。しかし、炭素価格が低すぎるため、必要とされる規模と速度で資本を呼び込むことができていません7。中国の炭素価格は、図表2に示したEUの炭素価格よりはるかに低く、二酸化炭素1トン当たりわずか8米ドル8です。一方で、我々は2つの理由から、この低価格をそれほど懸念はしていません。

第一の理由は、中国のカーボンプライシングは、将来の規模拡大の前に、短期的に石炭火力発電所の非効率性を削減させることに役立つからです。第二の理由は、EUが国境炭素税を導入したことが、世界中に良い波及効果をもたらすからです。EUと定期的に貿易を行っている国々は、高炭素製品を販売する際に国境で税金を絞り取られるか、または自国でクリーンエネルギー・システムに追加投資して税を回避するかのどちらかになります。EUの炭素税は、貿易相手国が自国の経済を速やかに移行させるためのインセンティブとなるでしょう。

グリーン・エネルギーのアメとしては、米国は太陽光発電能力を10年間で倍増させる調達契約を設け9、さらに、より高い賃金での雇用を生み出すグリーン工場建設への手厚い補助金を提供しています。また、パリ協定の「公正な移行(just transition)」という考え方が浸透するにつれ、人々をこの計画の中心に据えることを忘れない限り、低炭素エネルギーへの移行は新たな支援が得られると考えています10。当社は、グリーン投資による利益がもたらす力は止められないと信じています。

注記

  1. 出所: Dlouhy, J. and J. Ainger. 「How a Flawed But Historic Climate Deal Emerged From COP Chaos,」ブルームバーグ、2022年11月20日。
  2. 出所: Bose, S., Dong, G., and A. Simpson. 「The Financial Ecosystem: The Role of Finance in Achieving Sustainability,」パルグレイブ・マクミラン、2019年。

  3. 出所: Mazzocco, I. 「Cheap Solar (Part 1): How Globalization and Government Commercialized a Fledging Industry,」マルコポーロ、2021年1月14日。

  4. 出所: Nagy, B., Farmer, J., Bui, Q., and J. Trancik. 「Statistical Basis for Predicting Technological Progress,」プロスワン、2013年2月28日。

  5. 出所: 「Renewable Power Generation Costs in 2021,」国際再生可能エネルギー機関、2021年7月13日。

  6. 出所: Bullard, N. 「India's Coal-Dominated Power Market Is Tilting Toward Solar,」ブルームバーグ、2021年6月24日。

  7. 出所: Busch, C: Busch, C. 「China's Emission Trading System Will Be the World's Biggest Climate Policy,」フォーブス、2022年4月18日。

  8. 出所: 1メートルトンは、1000 kg または2204.6 ポンドに相当する。

  9. 出所: Esposito, D. 「Inflation Reduction Act Benefits: Clean Energy Tax Credits Could Double Deployment,」フォーブス、2022年8月23日。

  10. 出所: Eckhouse, B: Eckhouse, B. 「Green Factories Are Changing Minds in More Conservative US States,」ブルームバーグ、2022年11月28日。

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