スティーブン・ドーバー、CFA
チーフ・マーケット・ストラテジスト、フランクリン・テンプルトン・インスティテュート
ジョナサン・カーティス

ポートフォリオ・マネジャー、フランクリン・テンプルトン株式グループ

中国発のAI推論モデル「DeepSeek R1」の登場は、AI業界における進歩に大きな衝撃を与えました。発表を受けて、より低コストなモデルの出現によって大手AI企業のビジネスモデルが脅かされるとの懸念から、テクノロジーセクターが急落するなど、市場は即座に反応しました。

そこで、AI分野と投資への影響に精通するフランクリン株式グループの最高投資責任者(CIO)であるジョナサン・カーティスに、DeepSeekと今後の展望について詳しく話を聞きました。以下にその主な内容をまとめました。

DeepSeek R1とは

DeepSeek R1は、既存の3つの効率化技術を組み合わせることで、大規模言語モデル(LLM)の情報処理効率(計算効率)を飛躍的に向上させ、同時にコストを劇的に削減させたと報じられています。この技術革新は、AIの未来に広範な影響を及ぼす可能性を秘めています。特に注目すべきは、R1がオープンソースである点です。これにより、誰もがその手法を利用・再現できるようになり、MetaやOpenAIといった大手AI企業も、競争力を維持するために同様のアプローチを採用する可能性が高いと考えられます。しかし、この言語分野の進歩は、あくまでAGI(汎用人工知能)実現に向けた一歩に過ぎません。AGIの実現には、マルチモーダル対応、汎用的な知識構築、物理モデリングなどの分野でのさらなるブレークスルーが不可欠です。これらの分野では、モデリングのトレーニングに多額の投資が必要となります。

短期的なディスラプティブ(破壊的)な影響

  • MetaやOpenAIなどの大手AIハイパースケーラーが最近発表したStargateプロジェクトのような巨額投資計画には、DeepSeek R1のような効率性向上に対する業界全体の期待が既に織り込まれていると考えられます。
  • 主要な研究機関やハイパースケーラーにおいて、R1の登場によって、より強力な最先端AIモデルを追求する動きが鈍化する可能性は低いでしょう。
  • R1がもたらすコスト削減効果は、AI開発者の活動を活発化させ、推論(インファレンス)コンピュートの需要を増加させる可能性があります。
  • コンピュート需要の変化が見込まれるため、市場では短期的にはAI関連銘柄のボラティリティが高まる可能性があります。
  • インフラ関連プロバイダーにとっては、不確実性の高まりに直面する懸念があります。
  • 今後行われる主要各社の決算説明会では、事前学習(モデル構築)から事後学習(モデル活用)へと重点を移すコンピュート最適化や、それを支える設備投資の規模などへの対応方針について重要な示唆が得られることが期待されます。

長期的にはポジティブ

  • R1の効率性向上により、AIインフラへの需要はさらに高まり、AI技術の普及がより加速すると考えられます。
  • 過去には、光伝送技術におけるDWDM(高密度波長分割多重方式)が、光ファイバーの通信容量を飛躍的に高め、通信コストを大幅に削減したことで、革新的な進歩が加速しました。
  • DWDMがソーシャルメディアやWeb 2.0といった次世代インターネットサービスの普及を後押ししたように、R1による効率性向上による計算コストの削減も、ソフトウェア・アプリケーションや様々な分野でのAIの実用化を加速させる可能性があります。

まとめ

DeepSeek R1の登場は、AIの活用が短期的にはボラティリティを引き起こしつつも、長期的には大きな成長機会を提供するということを浮き彫りにしています。投資家は、ハイパースケーラー各社の設備投資動向や決算発表の内容を注視し、各社がこうした効率性向上にどのように対応していくかを見極める必要があります。最終的には、R1のようなイノベーションによってインテリジェンス創出コストが下がることで、AI業界はモデルの「構築」から「活用」へとシフトし、新たな変革期に入る可能性があります。私たちは、これはAIが経済全体を変革していく長い道のりの一部にすぎないと捉えています。

リスクについて

すべての投資には、元本を割り込む可能性を含むリスクが伴います。

株式は価格変動の影響を受け、投資元本を割りこむことがあります。中小型株は大型株と比較して、より大きなリスクとボラティリティを伴います。また、マルチファクターによる銘柄選択プロセスを採用した場合でも、運用パフォーマンスが必ずしも向上するとは限りません。特定の市場環境(しかも長期にわたる可能性もあります)によっては、こうした投資要因がパフォーマンスの重荷となる場合があります。

アクティブ運用は利益を保証するものではなく、市場下落局面において資産を完全に保護できるわけでもありません。

成長ペースの早いテクノロジー・セクターなどへの投資は、特に短期的には製品開発の急速な進歩や政府規制の変更といった要因により、価格変動リスクが高まる可能性があります。また、バイオテクノロジー企業や医療機器メーカーなどの場合、新薬や医療機器の規制承認リスクも抱えています。本稿で取り上げた特定の企業や事例は説明目的に過ぎず、フランクリン・テンプルトンの運用するポートフォリオで現在保有しているか否かを示唆するものではありません。

また、本稿の情報は特定の銘柄や投資戦略、投資商品を推奨するものではなく、フランクリン・テンプルトンが運用するいかなるポートフォリオの売買意図を示すものでもありません。

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