エグゼクティブ・サマリー

主なハイライト

インフレ抑制が依然として最優先課題:米国の労働市場は軟化の兆しを見せていますが、レイオフは低水準で推移しています。貯蓄水準や信用供与が引き続き個人消費を促していますが、実質所得の伸びは停滞し始めています。一方、一部のセクターでは消費者物価がここ数年にわたる市場金利や投入物価の急激な上昇に追いつこうとしています。インフレの鈍化傾向が確認されなければ、利下げは12月に1回だけ行われると予想されます。

ユーロ圏については、楽観的な見方を維持:ユーロ圏の第1四半期実質GDP成長率はプラス成長となり、ここ5四半期にわたり続いた景気停滞に終止符が打たれました。外需、投資、および個人消費が景気回復を主導しました。実質GDPの増加に沿って雇用が拡大し、失業率も過去最低水準で推移しました。総合消費者物価指数(CPI)とコアCPIがともに上昇しました。広く予想されていたように、欧州中央銀行(ECB)は6月に政策金利を引き下げました。

市場は日銀の利上げの可能性を過小評価?:我々は、年内に日銀が少なくとも2回の追加利上げを行い、政策金利の誘導目標の上限を0.50%に引き上げると見ています。一方、市場が織り込む利上げ回数は1回のみであり、誘導目標の上限は0.35%になると予想されています。円安の進行により、インフレが再加速するリスクがあるため、日銀は長期にわたり円安を容認することができないと考えられます。輸入物価指数はすでに上昇しており、インフレ期待も上昇しています。

米国経済レビュー

インフレ動向を見守る状況が続いている

  • 経済成長に対するリスクが高まっているが、インフレ抑制が依然として最優先課題である:経済成長に対する下振れリスクが高まっている一方で、インフレに対する上振れリスクは後退していません。さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)は追加利上げの可能性がゼロではないと述べており、今後もインフレ率が高止まりする可能性があることを示唆しています。インフレ見通しは不透明であり、インフレの鈍化傾向が確認されなければ、利下げが12月に1回だけ行われると予想されます。

  • 労働市場には軟化の兆し:家計は雇用の見通しについて慎重な姿勢を強めています。州レベルの失業率データは悪化傾向を示しています。月次の雇用者数の増加に占める非景気循環セクターの割合が非常に大きくなっています。一方、レイオフの総数はこれまでのところ過去最低水準で推移しています。

  • 個人消費に鈍化の兆し:国民一人当たりの実質可処分所得はここ1年間において横ばいで推移しています。1959年以降に起きたほぼすべての景気後退の前には、実質可処分所得が横ばいで推移していました。クレジットカード金利が上昇しているため、米国では可処分所得に占める住宅ローン以外の利払い負担が、住宅ローンの利払い負担とほぼ同じ水準まで高まっています。Z世代やミレニアル世代の借り手において、クレジットカードの延滞が急増しています。最近の企業業績を見る限り、消費者は裁量支出よりも生活必需品への支出を優先していると考えられます。

  • 消費者のバランスシートは依然として健全である:家計が保有する富は、歴史的に見て高水準で推移しています。住宅ローンに係る実効金利は3.8%であり、依然として低水準となっており、住宅保有者は持ち家において記録的なホームエクイティー(住宅価格からローン残高を差し引いた正味価値)を保有しています。FRBの資金循環統計によると、家計の手許現金はコロナ禍前のトレンドを上回って推移しています。家計の手許現金は名目国内総生産(GDP)の64%であり、歴史的に見て高水準であり、このことは経済成長とインフレに対する上振れリスクになる可能性があります。

  • コア・インフレの上昇をもたらす固有の要因:住居費、自動車保険価格、および医療費は、市場金利や投入物価の急激な上昇に追いつこうとしています。ヘルスケア分野ではまだ医療費が上昇する余地がある一方で、輸送サービスの分野では運賃やコストが市場金利や投入物価の急激な上昇に追いついているため、今後は運賃やコストの上昇が鈍化すると見込まれます。集合住宅の賃料は、供給の増加に伴って下落圧力を受ける可能性がありますが、戸建て住宅の賃料は、低水準の在庫や旺盛な需要により高止まりする可能性があります。

  • 賃金上昇圧力は徐々に緩和する:名目GDP成長率、採用、および解雇が落ち着いているため、名目賃金の伸びはさらに鈍化すると見込まれます。ただし、賃金は下がりにくい傾向があります。企業の賃金見通しは年初以降、もはや低下しておらず、安定化しているように思われます。ヘルスケア・セクターや労働組合に加入している労働者の賃金は、これまでのインフレ環境に追いつこうとしています。したがって、賃金の伸び鈍化は緩やかなものになる可能性があり、賃金の伸びは2024年を通じて、コロナ禍前のランレートを大幅に上回ると考えられます。

ユーロ圏経済の見通し

正常化が進んでいるが、そのプロセスは緩やか

  • ユーロ圏(EA)では、2024年第1四半期GDP成長率が前四半期比0.3%増となり、景気停滞から脱却しました。今後、プラス成長が続くと予想されます。我々は、総合CPIの鈍化や、高止まりしている賃金の伸びにより、消費者信頼感が歴史的な低水準から回復すると見ています。高い預金金利や、長引く経済の不透明感により、貯蓄率は依然としてコロナ禍前の水準を上回っていますが、今後数四半期において貯蓄率が低下することにより、経済成長が支えられると見込まれます。

  • 逼迫している労働市場も消費者を支えており、失業率は依然として過去最低水準で推移しています。一方、人手不足が緩和され始めている中で、労働者の需給の不均衡(特に産業セクターおよび建設業界)は解消しつつあります。サービス・セクターでは正常化プロセスが遅れる可能性があります。

  • インフレは鈍化傾向をたどっていますが、それでも浮き沈みがあります。総合CPIは5月に再び加速したものの、今後は低下傾向に戻ると予想されます。ただし、年末にかけて若干の変動が生じると見込まれます。ホスピタリティ活動やレクリエーション活動など賃金動向に影響を受けやすい項目は引き続き活発であり、消費者からの実需の高まりがインフレ上昇圧力となっています。

  • 夏場に向けて、新たに承認された財政ルールに注目が集まる可能性があります。新たな財政ルールは、欧州連合加盟国における財政赤字や債務の対GDP比率を引き下げることを目的としています。各国政府がコロナ禍やエネルギー・ショックに対応したため、財政支出が膨らみました。我々は、2024年が移行の年になると見られている中で、2025年に発効する新たなルールを遵守するためにユーロ圏の各国政府が準備を進めている様々な強化計画について、注視していきます。こうした動きは、現在予想される米国の財政方針とは異なるものになると考えられます。

  • 欧州中央銀行(ECB)は金融緩和を慎重に進める方針です。予想されていた6月の利下げは、金融引き締めを「緩める」ものではないと表現され、政策担当者は2024年全体を通して制約的な(実質)金利を維持することを望んでいます。ECBは今後、高止まりしているコアCPIや賃金を監視し、経済指標の動向を詳細に見極め、持続的な正常化への道のりを検証する方針です。このプロセスは時間を要するため、政策担当者は慎重な姿勢を維持する可能性があります。したがって、我々の基本シナリオでは、ECBが7月に追加利下げを行う可能性は低いと考えられます。次回の利下げは9月になり、その次は12月になると予想され、その際には新たな見通しも公表されると見込まれます。

日本経済の見通し

ジレンマに陥っている日銀(BoJ)

  • 予想通り、第1四半期GDP成長率は低調となったにもかかわらず、日本経済は順調な成長を続けています。品質不正問題による自動車の生産・出荷停止が緩和し、賃金上昇により個人消費が支えられると見込まれ、さらに堅調な企業業績を背景に民間部門の設備投資が活発化している中で、特に2024年下半期には景気が緩やかに回復すると予想されます。6月に実施される一度限りの定額減税では、一人当たり(扶養親族も対象)所得税から3万円、住民税から1万円が差し引かれることから、同時に行われる賃上げと合わせて、シナジー効果が高まる可能性があります。我々は、GDP成長率が2024年に前年比0.5%増となり、2025年には1.2%増に回復するとの予想を維持しています。

  • インフレは4月に鈍化しましたが、インフレの勢いは5月に再び加速する可能性があります。エネルギーはこれまでのところ消費者物価指数(CPI)の低下に最も大きな影響を及ぼしていましたが、再生可能エネルギー料金の値上げや、政府が2022年以降提供してきたガス代および電気代の補助金の終了により、今後はCPIの押し上げ要因になると見込まれます。これに円安が加わることにより、すでに輸入物価の上昇を招いていることから、今後数ヵ月にわたり物価上昇圧力が強まる可能性があります。我々は、2024年のコアCPIが前年比2.9%上昇すると予測しており、この予測は市場予測を大幅に上回っています。当面は物価が高止まりすると見込まれるため、2025年にはコアCPIが前年比2.7%近い上昇になる可能性があります。

  • 日銀はジレンマに直面している:このジレンマとは、円安により、インフレ期待が高まり、実質所得が減少する一方で、円安を理由に利上げを行えば、内需が鈍化し、成長モメンタムが減速する可能性があることです。日銀の植田和男総裁は、時期尚早な利上げを行うよりも、円安により観光収入や企業収益が押し上げられることから、円安には依然としてメリットがあると見ていいます。しかし、円安により、インフレ期待が高まり、インフレ指標が高止まりし、インフレが再加速するリスクが生じるため、日銀は長期にわたり円安を容認することはできないと考えられます。したがって、年内に少なくとも2回の利上げ(7月と10月に実施される可能性が高い)を行い、政策金利の誘導目標の上限を0.50%に引き上げると見ています。時間の経過とともに、市場は我々の予想に近づいていくと考えられます。6月の金融政策決定会合では、量的引き締めの可能性に関してより確固としたフォワード・ガイダンスが示されると予想されます。

  • 我々はインフレの高止まりを予想していることから、ターミナルレート(政策金利の最終到達水準)は2025年末までに2%近くまで上昇すると予想しています。こうした我々の予想は、利上げが極端に緩やかで、間隔をあけたものになるとの市場予想や、日銀の現在の想定とは対照的であると言えます。

リスクについて

すべての投資には、元本を割り込む可能性を含むリスクが伴います。

債券には金利リスク、信用リスク、インフレリスク、再投資リスクがあり、元本割れの可能性もあります。金利が上昇すると、債券の価値は下落します。低格付けのハイ・イールド債は、価格変動が大きく、流動性が低く、デフォルトの可能性があります。

株式は価格変動の影響を受け、元本割れの可能性があります。

グローバル投資は、為替変動や社会的、経済的、政治的な不確実性を含む様々なリスクの対象となり、ボラティリティを高める可能性があります。これらのリスクは新興市場ではより大きくなります。特定の国や地域の企業への投資は、地理的により広範に分散された投資よりもボラティリティが高くなる可能性があります。

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