2025年7月11日
スティーブン・ドーバー, CFA
チーフ・マーケット・ストラテジスト
ヘッド・オブ・フランクリン・テンプルトン・インスティテュート
キャスリン・ラキン
パトナム・インベストメンツ
ディレクター・オブ・リサーチ 兼 ポートフォリオ・マネージャー(米国リサーチ戦略担当)
マイケル・サルム
フランクリン・テンプルトン債券グループ
シニア・バイス・プレジデント
今年4月、トランプ米国大統領が世界各国の製品に対し、過去 100年で最高水準となる関税引き上げ計画を発表しましたが、その後株式市場は大幅に持ち直しました。発表直後、米国株は数日間にわたり急落し、通常は「安全資産」と見なされる米国債の価格さえも下落しました。その後、一部関税は発効、他は延期され、期限が再設定されるなど、多くの国との交渉が今も続いています。しかし7月初旬には、S&P 500種株価指数は過去最高値を更新するまでに回復し、債券市場の利回りも安定を取り戻しました。
市場を改めて捉え直し、投資家が関税をどう捉えるべきかを深く考察するため、私はフランクリン・テンプルトンの二人の専門家と議論の場を持ちました。一人は債券グループのポートフォリオ・マネージャーであるマイケル・サルム、もう一人はパトナム・インベストメンツでディレクター・オブ・リサーチを務めるキャスリン・ラキンです。
株式市場の回復
当初、関税が市場の大きな懸念材料となったのは、その税率が想定外の水準だったからです。市場では10%程度と観測されていましたが、4月2日の発表にはそれを大幅に上回る税率が含まれ、貿易相手国ごとに異なる税率が課されるというものでした。全体の平均税率が約40%に達したため、市場は数日間、混乱に陥りました。しかし、提示された税率が交渉材料の一部であり、その多くに90日間の猶予期間が設けられることが明らかになると、市場は冷静さを取り戻しました。
市場はこの猶予期間を利用し、国や産業分野ごとに異なる税率を分析するための、より精緻な定量的モデルを構築しました。今では投資家も、変化する情報を迅速かつ効率的に織り込み、新たな関税が及ぼす潜在的な影響を数値で評価できるようになっています。例えば自動車産業は、一般的な関税に加え、鉄鋼やアルミニウムといった部材への関税など、多岐にわたる影響に直面しました。その後、市場の利益予想は下方修正されましたが、その後の株価の動きは、この修正された予想がおおむね的確であったことを示しています。
現時点で市場は、関税率が発表前の平均約2%から、現在そして将来的には約15%の水準まで実質的に引き上げられると見ています。もちろん、多くの国との交渉が継続中であるため、この水準は変わり得ます。依然として不透明感は拭えませんが、投資家は情勢変化を分析する能力に自信を深めており、4月のような市場の激しい変動が再発する可能性は低いでしょう。最終的な関税率が15%を大きく上回れば株式市場には負の影響が想定されますが、市場はこの15%という水準には以前より備えができています。逆に、最終税率がこれを下回れば、株式にとっては好材料となる可能性があります。
また、4月以降の株価回復には幅広い銘柄が寄与している点も注目すべきです。これは、過去2年間にわたり、マグニフィセント・セブン(アルファベット、アマゾン、アップル、メタ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの7銘柄)を牽引してきた潮流からの変化です。この上昇相場の裾野の広がりは、フランクリン・テンプルトン・インスティテュートが調査活動でかねてより指摘してきた主題でもあります。
経済への影響は限定的
関税による負担は、米国の輸入業者や海外の輸出業者といった企業が一部を吸収するものの、最終的には消費者に転嫁される公算が大きいでしょう。我々は、実効税率約15%の関税は、消費に対する3%の全国売上税に相当すると分析しています。
関税には、広範な品目に課される一般関税から、鉄鋼、アルミニウム、銅といった重要物資や、自動車、医薬品などの基幹産業を対象とする分野別関税まで、様々な種類があります。家計への影響は所得水準や購入する輸入品によって異なりますが、マクロ経済の視点では、追加的な費用負担にもかかわらず、消費者心理と個人支出は底堅く推移している模様です。
大企業の対応は異なります。株式アナリストによると、企業は大規模な投資計画を中止こそしていないものの、実行を先送りしています。これは前向きな兆候と言えます。各社は、どこに資本を投下することが財務的に最も有利か、より的確に判断できるまで待つ姿勢なのです。
要するに、我々の専門家は、関税が経済成長の軌道を狂わせるほどの影響を持つとは考えていません。国内総生産(GDP)成長率は年後半に1%近くまで減速するものの、その後は2%近辺へ回帰すると見ています。
コストの上昇はインフレ懸念を招きがちですが、その危険性は一部の投資家が当初恐れていたよりも低いようです。我々の分析によれば、平均15%の関税は全体の物価を約1.5%押し上げるものの、これが持続的な物価の不確実性につながることはないでしょう。
今年の米ドル安も、我々にとっては大きな懸念材料ではありません。米ドルは歴史的な高値圏から下落しているに過ぎず、過去の水準と比較すれば依然として相対的に強いと言えます。また、米ドル安の背景には、米国と主要貿易相手国との金利差の変化が大きく影響していると見られます。関税を巡る混乱の初期には、海外投資家が米国市場から資金を引き揚げているとの憶測もありましたが、ここ数ヶ月、米国資産への世界的な敬遠姿勢を示す兆候はほとんど見られません。
投資機会は広範囲に存在
我々の専門家が強調したのは「分散」という考え方です。海外市場や、株式・債券両市場の多くの分野に、魅力的な投資機会が存在します。例えば海外株式は、米ドルに対する自国通貨高の恩恵も受けて、多くの国で米国を上回る良好な成果を上げています。
また、ドイツ、日本、カナダなど、いくつかの国は大規模な景気刺激策を含む独自の経済改革を進めています。ドイツはその好例です。長年、低水準の借入で財政規律を維持してきたことで知られていますが、現在では、今後5年間でインフラ等への支出を70%増やす計画を打ち出しています。
債券市場では、全体的にスプレッドが小さく、突出して有利な分野が見当たらないため、分散は特に有効なリスク管理手段となります。我々の見解では、ハイイールド債は関税を巡る不確実性の中で特に危険性が増したわけではありませんが、積極的に選好する理由も見当たりません。債券の各分野や海外市場へ幅広く資産を配分しておくことが望ましく、それによって新たな投資機会が生まれた際にも柔軟な対応が可能となります。
先行きに注視しつつも、安定性は増す
歴史的な関税政策の変更から3ヶ月が経ち、市場は以前より落ち着きを取り戻している、というのが我々の見解です。世界各国との最終的な貿易協定の交渉には時間を要し、市場の注視は続きますが、市場参加者は目まぐるしく変わる報道や決定事項を理解するための、より優れた分析手段を手にしています。
リスクについて
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海外投資は、為替変動や社会的、経済的、政治的な不確実性といった特別なリスクを伴い、ボラティリティを高める可能性があります。これらのリスクは新興国市場ではより増大します。
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