安定した分散投資先として豪州株に見直し余地

 2025年の世界の金融市場は、トランプ政権による朝令暮改の政策がもたらす不確実性により、大きく揺れ動いています。こうした先行きの見えにくい市場環境の中、米国以外の安定した投資先を求める投資家の間で豪州株への関心が高まりつつあります

 実際、2025年初来の豪州株のトータルリターンは、トランプ関税ショックによる米国株の変動の高まりと比較して、安定した回復基調を維持しています(図1)。

 このような豪州株のパフォーマンスの安定を支えている要因として、以下に挙げられる「不安定な外部環境に対する豪州経済の3つの耐性」が考えられます。

【耐性①】 内需主導の豪州経済の安定性の高さ

 第一に、内需主導の豪州経済の安定性の高さです。

 足元では世界的な貿易戦争への懸念から、米国や欧州での景気後退リスクへの警戒感が根強く残っています。米国の今後12ヵ月の景気後退確率の市場予想は40%と比較的高水準にあり、今後の通商交渉が難航する場合には、消費や投資の手控えにより景気後退リスクが再燃する可能性も残されているとみられます。

 一方、豪州の景気後退確率の市場予想は、足元の世界経済の不透明な環境においても18%と相対的に低く、豪州経済が継続的なマイナス成長に転じる可能性は限定的との見方が市場の大勢となっています(図2)。

IMFは相対的に底堅い豪州景気の回復を予想

 2025年4月に公表された国際通貨基金(IMF)の最新予測では、豪州の相対的に底堅い経済見通しが示されました。豪州の2025年の実質GDP+1.6%と緩やかな伸びに留まるものの、2026年以降は米国を上回る2%台の安定した成長への回復が予想されています(図3)。

 2025年から2026年に向けては、関税による貿易取引の分断が世界経済の成長を抑制するリスクがなお残されており、豪州のように内需主導の自律的な経済成長が可能な国に投資家の注目が向かいやすいと考えられます。

【耐性②】 豪州政府・中銀の政策発動余力の高さ

 第二に、豪州政府・中銀の政策発動余力の高さが豪州の内需の回復を後押しする要因になりそうです。

 まず、金融政策の面では、豪州準備銀行(RBA)は5月20日の理事会において今年2回目の利下げを決定しました(政策金利は3.85%へ0.25%ポイント引き下げ)。

 RBAはハト派的な利下げを判断した要因として、国際情勢の悪化に伴う景気圧迫とインフレ上振れリスクの低下を挙げました。豪州の基調インフレ率は2025年1Qに前年比+2.9%へ低下しており、RBAでは2026年に向けてインフレ目標圏内での推移を予想しています(図4)。 

RBAは景気に配慮した利下げの可能性を示唆

 足元の市場では、2025年末までに2回程度の緩やかな利下げを予想する見方が大勢となっています。

 もっとも、RBAは「国際情勢の悪化が豪州の経済活動やインフレに重大な影響を及ぼす場合には、十分な金融政策の対応余地を残している」と述べ、景気下振れリスクに対応したより積極的な金融緩和を行う用意があることも示唆しています

豪州政府の拡張的な財政政策が景気を下支えへ

 一方、財政政策の面では、53日の総選挙で大勝したアルバニージー(労働党)政権は所得税減税などの生活費支援策の実施を表明しています

 総選挙を受けて、与党・労働党は議会で安定した政権基盤を築きつつあり(下院では過半数議席を獲得、上院でも議席数を拡大)、緩やかに拡張的な財政政策が今後の豪州景気を下支えすることが期待されます。

豪州政府の財政健全性と景気支援策の余力

 また、足元の金融市場では、格付け会社ムーディーズによる米国債格下げなどをきっかけに、トランプ政権下での財政赤字拡大への懸念が台頭しつつあります。

 一方、豪州では2023年度の財政収支は2年連続の黒字が維持されたほか、政府の総債務残高もGDP比33.9%と主要国の中でも特に低い水準にあることで、豪州政府は一定の財政健全性を保ちながら景気支援策を打ち出す余力を残していると言えます(図5)。

【耐性③】 豪州のトランプ関税リスクの低さ

 第三に、豪州のトランプ関税リスクの低さが挙げられます。

 主要国の米国向け輸出額の名目GDP比率を比較すると、豪州は0.8%と主要国の中でも対米輸出への依存度が特に低いことが分かります(図6)。

 加えて、豪州は米国にとっての貿易黒字国であることや、米国が必要とするレアメタルやウランなどの重要鉱物資源という交渉カードを有していることからも、今後、豪州と米国の通商関係が悪化するリスクは低いとみられます。

豪州の内需セクターは業績下方修正リスクが低い

 今後の豪州株への投資にあたっては、豪州株の中でも世界経済の動向に左右されにくく、業績下方修正リスクの低い内需セクターへの注目が高まりそうです

 足元ではトランプ政策の不透明感から、欧米株式市場では2025年の利益見通しが下方修正される動きが広がっています。豪州株式市場でも、緩やかに利益見通しは下方修正されつつあるものの、豪州の内需セクターは外部環境の変化の影響を比較的受けにくいため、利益見通しは安定傾向を維持しています(図7)。

需給面でも豪州株への資金流入が改善する兆し

 また、需給面でも、足元の不透明な市場環境の中、豪州株への投資資金の流入が改善する兆しがみられます。

 図8は豪州株と米国株の上場投資信託(ETF)への資金フローを比較したものです。2025年に入ってからは、米国株ETFへの資金流入ペースが鈍化傾向にある一方で、豪州株ETFへの資金流入はむしろ拡大基調にあります。

過去の経済危機の後の豪州株のパフォーマンス

 最後に、円建てで見た豪州株の長期的なパフォーマンスを振り返ると、ITバブル崩壊、リーマン・ショック、コロナ危機といった過去の様々な経済危機の局面でも、豪州株は底堅い回復を見せてきました(図9・10)。

 こうした過去の経験からも、対外的なショックに対する豪州株の高い耐性がうかがえ、足元で豪州株への投資が見直され始めている要因のひとつと言えそうです。

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