主なポイント
- トランプ政権は、米国の関税水準を貿易相手国と同等にするために相互関税を導入し、これを税金や非関税障壁にも拡大することを検討しています。関税引き上げのシナリオには2つあります。シナリオ1では、中国製品に対して完全な相互関税に加えて10%を上乗せし、シナリオ2ではこれに加えて重要な輸入品に対して25%の関税を課します。これにより、シナリオ1とシナリオ2では平均関税率がそれぞれ3.7および9.3%上昇することとなります。関税の広範な経済的影響には、製造業の雇用、鉱工業生産、設備投資(capex)期待への潜在的な影響が含まれます。私たちの想定シナリオでは、コアインフレ率が0.35〜0.9%上昇する可能性があります。
- 今年のユーロ圏(EA)の成長見通しは、米国政権の混乱によって鈍化していますが、進行中の変化により中期的には楽観的な見方が強まっています。2025年の成長見通しは、関税の脅威とそれに伴う不確実性が、停滞した成長の勢いに重くのしかかり、依然として厳しい状況にあります。一方、米国が世界の安全保障問題への関与を縮小する意向を示す中で、ドイツは保守的な財政アプローチに歴史的な変更を行いました。インフラ整備と防衛費の支出増加は、今後数年間の潜在的な成長率を引き上げる可能性があります。このような背景から、欧州中央銀行(ECB)は引き続きデータ依存的な姿勢は維持しますが、今年中に追加の政策金利の引き下げが予想されます。
- 日本銀行の政策正常化への道は続く:私たちは、日銀が1月の利上げに続き、今年少なくとも2回(または3回)の利上げを実施すると確信しています。構造的には、インフレ率はより粘着的でかつ高止まりしており、2025年の年次賃金交渉でも賃金の伸びは堅調に推移すると予想され、成長は底堅く推移しています。最近の日本国債利回りの上昇に見られるように、市場はさらなる利上げを織り込んでいます。しかし、市場が予想するターミナルレートは、私たちが予想する約2.00%をまだ大きく下回っていると考えています。

米国経済レビュー
米国経済:関税は効果的な平等化手段となり得るか?
【成長見通し】中立的楽観
- 関税戦略:トランプ大統領の2期目の任期開始から6週間以内に、同政権は中国からのすべての対米輸出品に対して10%の関税を課しました。一方、他の貿易相手国には譲歩と引き換えに関税を猶予するという「アメとムチ」のアプローチを採用しています。2月13日の覚書では、米国の関税を貿易相手国の対米平均関税率と同等にすることを求めており、この相互主義を税金(付加価値税や米国企業に対する域外課税を含む)や非関税障壁(不当な補助金、負担の重い規制環境、緩い知的財産保護、為替レートや賃金の抑制政策)にまで拡大することを提案しています。
- まだ不明瞭な相互主義の範囲:国別の関税が最も実行しやすいものの、政権はこのアプローチを明確に支持していません。覚書によると、新たな輸入税は米国の貿易相手国ごとに調整される予定であり、関税は特定の製品やその国の産業全体に適用される可能性があります。「重要な輸入品」に対する関税は、相互関税とは無関係のままとなる可能性が高そうです。また、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる国々が影響を受けるかどうかも不確かです。
- 明確ではないスケジュール: 2月13日の覚書は、ホワイトハウス行政管理予算局(OMB)に対し、180日以内(8月12日まで)に報告書を提出するよう指示しています。4月1日までに提出される商務省、米国貿易代表部、その他の貿易関連機関による外国貿易慣行の見直しが、この報告内容に大きな影響を与える可能性があります。そのため、相互貿易計画の策定には数ヶ月を要する可能性があります。このアプローチの範囲が広いため、より多くの貿易相手国が交渉のテーブルに着く可能性があり、リードタイムが長くなることで交渉の余地が生まれます。
- 関税引き上げの試算にある2つのシナリオ:シナリオ1(完全相互主義+中国製品に対する10%の追加関税)の場合、加重平均関税は3.7%上昇し、6.1%になる可能性があります。シナリオ2(完全相互主義+中国製品に対する10%の追加関税+「重要な輸入品」に対する25%の追加関税)の場合、関税は9.3%上昇し、11.8%に達する可能性があります。重要な輸入品を含むシナリオ2では、シナリオ1よりも5.8%上乗せとなり、そのうち自動車と医薬品に対する25%の関税がそれぞれ約2.6%、1.6%寄与します。
- 10 年間の関税収入:輸入代替、輸入の縮小、および貿易フローの経路変更がほとんどないと仮定した場合、10年間の総関税収入は、シナリオ1では約1.2兆米ドル、シナリオ2では約3.7兆米ドル増加します。他の分野での税収減により純収入は減少する可能性が高いですが、シナリオ2での純収入は、トランプ大統領の10%の共通関税と中国からの輸入品に対する60%の課税が生み出すと予想された2.7兆米ドルの純税関税収入に最も近くなる可能性があります。輸入関税の純徴収が前回予想を下回る場合、財政均衡にさらなる圧力がかかるため、従来の計画よりも、減税規模をより小さくするか、歳出削減額をより拡大する必要が生じる可能性があります。
- 経済への影響:2018年の関税措置は、製造業指数の低下と雇用減少を引き起こしました。製造業調査によると、関税への懸念が設備投資の見通しに重くのしかかり始めています。米国企業の経営層の議論において、関税についての議論は、2018年に比べて顕著に増えており、設備投資を延期または中断する企業も出てきています。カナダ、メキシコ、中国に最も依存している企業では、アナリストの設備投資予想が下方修正されています。また、米国の製造業製品の輸入が中国からメキシコやアジアの他の地域にシフトしていますが、製造業の全体的な輸入依存度は依然として高く、米国国内の製造業生産高の約40%を占めています。したがって、関税案の範囲が広範囲に及ぶと、米国の労働者や消費者の幅広い層に深刻な影響をもたらす可能性があります。
- インフレへの影響:関税は基本的に相対的な価格変化を引き起こすため、その影響を正確に見積もるのは困難です。米ドル高がインフレ抑制の追い風となることは変わりませんが、現在の物価環境は2018年とは大きく異なります。そのため、他セクターによるデフレ効果は期待しにくい状況で、今回はコア財価格への短期的なショックがより顕著に現れる可能性があります。私たちのシナリオでは、コアインフレ率が0.35~0.9%上昇する可能性があると見ています。


欧州経済の見通し
ユーロ圏経済:不確実性を生む混乱
【成長見通し】中立的懸念
- 米国が保護主義を強化し、世界の安全保障における役割を再評価していることから生じる不確実性が重荷となり、ユーロ圏の成長は今年も低水準にとどまると予想されます。これにより既存の構造的弱点が悪化し、すでに高まっている国内経済の不確実性が増す可能性があります。しかし、地政学的状況の変化が欧州の対応を促しています。ドイツはインフラ整備と防衛費を拡大するための歴史的な財政パッケージを発表し、欧州連合(EU)加盟国は欧州の軍事費に関する新たな枠組みについて議論しています。いくつかの課題は残っているものの、根本的な変化が進行中で、これは、中期的な成長見通しがより興味深いものになってきていることを意味しています。
- 米国の潜在的な関税の影響を予測するのは困難です。現在、トランプ米大統領が提案したさまざまな措置の範囲、規模、時期に関する詳細は不明です。EUの輸出依存度は、実施される措置にもよりますが、国内総生産(GDP)の0.1%未満から0.5%の範囲になると推定されます。しかし、さらなるセクターが関税対象となる可能性や、より厳しい関税が発表される可能性もあります。米国の関税引き上げによる直接的な影響は比較的小さいものの、不確実性の高まりは投資への信頼感を圧迫し、経済成長にとってより大きな問題となると思われます。EUのインフレは、米国製品の輸入に対する報復の範囲が限定的なため、重大な影響を受けることはないと予想されますが、米国のハイテク大手のサービス輸入に対する監視が強化される可能性があります。
- 長年の支出不足を経て、EUは新たな防衛の枠組みを模索しています。米国が世界の安全保障における役割を再評価しているため、EUはいわゆる「平和の配当」の恩恵を受けることができなくなりました。防衛費を現在のGDPの2%より増やすことは避けられませんが、EUは短期間で解決策がないいくつかの問題に直面しています。多くの国で政府の赤字と債務が依然として高水準にあり、EUまたは超国家的な資金調達の選択肢には重大な政治的合意が必要です。さらに、欧州における軍事装備の供給は新たな需要を満たすには不十分であり、大部分を輸入せざるを得ない可能性が高いと思われます。一方で、ドイツでは財政規律の全面的な見直しを進めており、防衛とインフラ投資の拡大に向けた支出がさらに押し上げられることになりますが、いずれも時間がかかります。したがって、こうしたパラダイムシフトによる短期的な影響は限定的と思われますが、中期的な成長見通しは改善しているように見えます。
- このような不確実性を背景に、ECBは依然として慎重な姿勢を維持しています。3月の金融政策決定会合では、ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁が、内外の要因によって引き起こされる不確実性が「並外れて高い」と強調しました。これは、ECBが今後、データへの依存度をさらに高めることを意味すると考えられます。短期的な成長見通しが依然として厳しいため、今年も追加利下げの可能性はありますが、ECBの選択肢は広がっています。

日本経済の見通し
日本経済:市場予想よりも高いターミナルレート
【成長見通し】中立的楽観
- 日本のGDPは依然として低迷していますが、個人消費は底堅く推移しています。実質世帯収入の安定化に伴う堅調な個人消費を背景に、2025年も引き続き底堅い成長が見込まれます(GDP予測は前年比1.2%増、2024年は0.1%増)。年次賃金交渉(春闘)の詳細は3月に発表される予定ですが、これまでの報道を見る限り、大半の企業は要求を受け入れる意向を示しています。日本労働組合総連合会(連合)は、今年の賃上げ幅を全体で5%、中小企業は6%とすることを要求しています。これに観光客の増加(2023年第4四半期の770万人に対し、2024年第4四半期は1,000万人を突破)が加わり、堅調な内需を下支えすると見られます。自動車関税は、日本の対米輸出の大部分を占めているため、痛手となる可能性がありますが、非関税障壁に関するいくつかの譲歩を通じて、妥協点を見つけることができると考えられます。
- インフレは再び頭角を現し、1月の総合指数は前年同月比4.0%となりました。これは、2024年末以降、コメ価格(前年同月比70.9%)を筆頭とする食料品価格(前年同月比7.8%)の急騰によるもので、流通と投機的課題によってコメ価格は高騰しています。2025年のコア消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、エネルギーに対する断続的な補助金によって変動が予想されるものの、前年比2.7%増と高水準を維持すると予想しています。企業が高い投入コスト(人件費、原材料費)を小売価格に転嫁する傾向が強まり、日本のインフレ動態の構造的変化が進行していると見ています。労働市場は多くのセクターで逼迫した状態が続いています。
- 日銀は今年、少なくともあと2回の利上げを行う可能性が高いですが、私たちは3回の利上げの可能性が高いと見ています。高田審議委員をはじめとする最近の日銀の発言は、政策正常化への道筋が順調に進んでいるとの見方を強め、市場を後押ししています。日銀は今年の賃金が堅調であることを確信しているだけでなく、さらなる利上げに向けて成長も堅調に推移する可能性が高いと見ています。このような発言は、ターミナルレートが1%を超える可能性があるという市場へのシグナルである可能性が高く、私たちはこの見解を一年以上前から続けています。一部の人々にとっては大袈裟に思えるかもしれませんが、金融政策が引き締まるにつれて、金利が上昇圧力に直面するという見方をデータが裏付けています。

リスクについて
すべての投資には、元本を割り込む可能性を含むリスクが伴います。
債券には金利リスク、信用リスク、インフレリスク、再投資リスクがあり、投資元本を割り込むことがあります。金利が上昇すると、債券の価値は下落します。低格付けのハイイールド債は、価格の変動が大きく、流動性が低く、デフォルトの可能性が高くなります。
株式は価格変動の影響を受け、投資元本を割りこむことがあります。
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特定の国や地域の企業への投資は、地理的により広範に分散された企業よりもボラティリティが高くなる可能性があります。
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