2025年4月30日
スティーブン・ドーバー, CFA
チーフ・マーケット・ストラテジスト
ヘッド・オブ・フランクリン・テンプルトン・インスティテュート
フランクリン・テンプルトン・インスティテュートのスティーブン・ドーバーが、トランプ米国大統領の就任から100日間を振り返り、投資家が今後どのような点に注目すべきか、その見通しを語ります。
- トランプ大統領の最初の100日間は、その展開の速さと影響の大きさにおいて特筆すべきものでした。そして今、まさに正念場を迎えようとしています。
- これからの100日間は、財政赤字の削減という課題に同時並行で取り組みつつ、いかに法案を成立させるかという点に焦点が移るでしょう。
- 議会でのアクションが必要となり、そのためには議会内での勢力結集が不可欠です。「DOGE」や関税といったテーマほど耳目を集めるものではないかもしれませんが、投資家にとっては、こちらの方がはるかに重要な意味を持つ可能性があります。
トランプ大統領の就任後100日間をここで総括しておくことには意義があるでしょう。様々な結論が考えられますが、突き詰めれば、次の100日間は様相ががらりと変わる可能性があるという一点に尽きるかもしれません。そして、その先に待ち受ける影響は投資家にとって計り知れないものとなる可能性があります。
最初の100日間
上下両院で多数派を形成しているにもかかわらず、トランプ大統領の最初の100日間を特徴づけたのは、立法上の実績ではなく、大統領令の多用でした。実際に、最初の100日間で発令された大統領令の数は、歴代大統領の中で最多を記録しています¹。
投資家を動揺させたのは、主に二つの大統領令でした。一つは政府効率化省(DOGE)による歳出削減、もう一つは関税です。
DOGEによる歳出削減は、連邦政府職員の削減や、USAID(米国国際開発庁)、教育省といった複数の省庁の大幅な規模縮小を伴うものでした。この歳出削減が注目されたのは、経済への直接的な影響というよりも、その前例のない手法がもたらす潜在的な波及効果への不透明感でした。社会保障やメディケイド(低所得者向け医療扶助制度)などの給付が滞ることによる個人消費への悪影響や、ひいては景気後退に陥るのではないかとの懸念が広がりました。
関税を巡る不安は、米国のみならず世界の株式市場をさらに深刻な下落へと導きました。米国経済の先行き不透明感が高まる中、2月下旬から株価は下落基調を強め、それに呼応するように米国債利回りも低下、4月上旬には5ヶ月ぶりの低水準を記録しました。その後、立て続けに関税に関する発表がなされ、ついには「解放の日」と称される発表に至ります。これは、市場関係者の大方の予想をはるかに超える高率の報復関税を、事実上すべての米国の貿易相手国に課すという内容でした。4月の第2週までには、多くの市場指数がベアマーケット(直近高値から20%以上の下落)入りしました。
しかし、意外なことに、株価の下落と時を同じくして米国債利回りは急上昇し、米ドルは下落するという、通常ではめったに見られない現象が起きました(不確実性の高い局面では、米国債と米ドルは「安全資産」と見なされるのが一般的です)。
市場の動揺がようやく収まったのは、4月9日、(中国に対するものを除く)大半の報復関税が90日間の見直し期間に入るとして一時停止されてからのことでした。この決定の背景には、米国債市場の機能不全を通じて金融システムへのストレスが顕在化しつつあったことへの危機感があったと、多くの市場関係者は分析しています。
市場は秩序の回復へ向かっています。 ごく最近になって、トランプ大統領は関税に関して一部例外を認める姿勢を見せ始めています。また、大統領自身やスコット・ベッセント財務長官を含む政権幹部からは、他の国々との間でさらなる譲歩に向けた交渉が行われる可能性も示唆されています。こうした発言は、トランプ大統領就任後100日間の終わりに向けて、市場がより落ち着きを取り戻し、より穏やかな市場環境の回復に貢献しました。
では、なぜ次の100日間は様変わりすると言えるのでしょうか。 これから先の100日間が、最初の100日間のような波乱の展開を繰り返すことはないだろうという見通しは、投資家にとってある種の安堵感をもたらすかもしれません。この見通しは、二つの観察に基づいています。
第一に、ホワイトハウスによる大胆で前例のない、市場を混乱させるような政策変更への意欲を抑え込む以下のような力が、様々な方面から現れ始めています。
- 市場を混乱を招く関税の発表による、米国債および金融システムの根幹に過度なストレスがかかるとの懸念の高まり
- 米国債は金融機関における担保付借入の主要な手段であると同時に、あらゆる資本市場におけるリスク評価の基準であるということ
- DOGEによる歳出削減や関税といった強硬策が、トランプ大統領および共和党への政治的支持を低下させつつある兆候
- 特に2026年の中間選挙を控え、国民からの支持(あるいは不支持)が、大統領による行き過ぎた権限行使を抑制する防波堤として機能し始めていること
第二に、政治的な現実対応という観点からも、ワシントンにおける政策の基調を転換せざるを得ない状況があります。
- 共和党は、2017年に導入された減税措置のうち、このままでは期限切れとなる条項(もし期限切れとなれば、来年多くのアメリカ国民にとって大幅かつ不人気な増税を課すこととなる)を延長する法案を成立させることが、政治的に不可欠であると認識しています。
- 共和党はまた、政府機関の運営に必要な歳出法案を可決しなければならないことも承知しています。
- 今後は、大統領令によるトップダウンの政治よりも、通常の国家運営に求められる手続きが優先される公算が大きく、これは今後数ヶ月の投資環境がこれまでとは大きく異なるものになることを示唆しています。
投資家にとっての意味合い
混沌とした大統領令から、地道な議会運営へと移行するだけで、投資家の不安は和らぐように思えるかもしれません。おそらくそれは正しいでしょう。しかし、減税措置を延長・拡大し、歳出法案を可決することは、議会にとって相当な難事業となるはずです。上院・下院の共和党内ですら、意見集約には数ヶ月に及ぶ困難な交渉が必要となる可能性があります。
これは何を意味するのでしょうか。仮に経済の低迷によって市場環境が悪化した場合でも、私たちの見解では、議会による迅速な政策介入は期待薄ということです。議会からの新たな税制や歳出関連法案を当て込んで、2025年の残りの期間における堅調な市場リターンを期待する投資家は、その実現には相応の忍耐を強いられることになるかもしれません。
法案審議の難しさの一因は、議会、とりわけ下院における共和党の議席数が僅差である点にあります。多くの共和党議員が減税に前向きである一方、一部には減税とセットでの大幅な歳出削減を強く求める声があります。しかし、この歳出削減は、地方の多くの共和党支持層が利用しているメディケイドのような社会保障制度の改革なしには達成できません。
おそらく、次の二点が現実的な線となるでしょう。
- 2017年税制における既存の減税条項は延長されるでしょう。
- 痛みを伴う歳出削減を財源とするような大規模な減税案が、年内に議会を通過する可能性は、政治的に見て限りなく低いでしょう。
これは投資家にとって重要な意味を持ちます。私たちの見解では、減税が経済や市場の追い風となる可能性は低く、また、連邦準備制度理事会(FRB)は、関税の影響が経済データに一巡し、インフレが確実に沈静化すると確信できるまで、金融政策の現状維持を続ける可能性が高いと思われます。米国の経済成長や企業収益の見通しが悪化した場合、財政政策も金融政策も、迅速な対応策を打ち出せる状況にはないと考えられます。
トランプ大統領就任後100日間を覆っていた不確実性(DOGEによる歳出削減や関税)が後退しつつあることに、投資家はひとまず胸をなでおろしていることでしょう。しかし、多くの面で、本当の難題はこれから始まるのであり、投資家が期待するような成果を実現するには、多大な努力と高度な政治手腕が求められることになるのです。
脚注
1. 出所:「Trump sets executive order record in his first 100 days.」CBS News、2025年4月29日。リスクについて
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